01.仮面の下で歪んでいくの

「李土様、ご紹介したい者がおります故・・・失礼致します」

一翁が連れてきたのは拓麻達と同年代くらいの少年。銀糸の髪を持つ彼の表情はまるで雪の様に冷たく鋭利な刃___。彼はこちらを見ると跪く。

「錐生壱縷です。以後、お見知りおきを・・・」と名乗った。

(錐生・・・・・・何故、ハンターの家系の者が僕の足下に跪いてるんだ・・・)

また一翁が面倒くさい案件を持って来やがった。額に手を当て李土は困ったように息を付く。

「僕は、玖蘭李土だ」
「あなたが李土・・・様・・・閑様の」

ぼそりと閑がどうたらと聞こえたが気のせいか。それに気づいた一翁は彼の耳元に聞こえない程度の声で囁く。

『閑様が飼っておられたハンターの子供です』

(閑・・・・・・)

人間と種族の隔たりを越えて共に在るべきだと教えたのはこの俺だ。だが、ペットとして愛玩すれとは言ってないぞ。まあ愛した男の代わりにしたのかもしれないが。

「どうしてお前は僕の下に来たんだ。僕が彼女を檻に閉じ込めてさえいなければ、死にはしなかったかもしれないだろうに・・・」

「閑様は死の間際に、貴方の下に行けと言われました。」

あの人にそう言わせるこの方。閑様と同じ純血のヴァンパイアで、自らの両親を殺して吸血鬼界を恐怖に陥れた存在___。

だが、実際に会ってみるとただの一人の人間のような方だ。
とてもじゃないがその様な吸血鬼には見えなかった。

「俺にはもう何もありません。だから、貴方の成そうとする事に俺を使ってください」
「・・・なんでお前たちは、僕は・・・他者にそんなことを言わせるためにやってるんじゃない」

李土は首を横に振った。お前を使うつもりはないと。

「使わないというのなら、俺はただ静かに死を迎え入れるだけです」

暗にそれは自らの手で命を負えるということだろう。さらに俺は頭を悩ませる。

「壱縷よ・・・そう簡単に命を捨てると言うな。閑はお前を大切にしてたはずだ・・・僕としてはお前にはそのまま平穏無事に生きていて欲しい」

説得するが壱縷の目を見ればその意志を変えることはなさそうだった。

「李土様・・・彼の意志は固いのです。それを尊重することも時には大事です。
たとえ、命を落とすようなことであっても」

一翁は李土を諭すように口を開いた。深く刻まれた皺。それらは長い年月を生きた証。しかし俺からしてみればそれでも子供のような年齢だ。

「だが僕はそうは望まない。あれの忘れ形見なら丁重に預かるべきだろう」

「李土様が悠様や樹里様が幸せに暮らせることを望むように、彼にとって閑様と共に在ることが一番の望み。

それに、貴方様は無理強いすることを一番嫌っておいででしょう」

「分かった・・・分かった、望み通り僕はお前を使おう。それで良いか?」
「・・・はい」

そうは言ったが、もし助けることが出来る機会があれば彼の命は救いたい。俺が閑ならばそう望む。だから俺の下に寄越したのではないかと思うんだ。

(出来れば閑・・・お前も生きてほしかった・・・すまない)

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