02.幸せに気づかない幸せを知って

黒主学園までの道を走る車の中。俺と壱縷は隣り合って後部座席に座っている。ただただ沈黙の時が流れるが、李土から口を開いた。

「壱縷・・・もし気が変わったならば、僕にすぐ言え」
「・・・・・・分かりました」

ちらりと壱縷の様子を窺う。彼はハンターで人間、だがその体には純血の血が入ってるのが匂いで分かる。それが誰の者なのかも___。

純血種は己の血を取りこんだ者の中に残留思念として残る事があるから、もしかしたら壱縷の中に閑が存在しているかもしれない。

それなら、なおさら彼の事を大事にしてやらねばなるまい。下手なことをすれば閑に何されるか分かったものじゃないからな。

「閑様はご両親を亡くされた後、婚約者に決まった貴方の下に引き取られたと聞きました。幼い頃の閑様はどんな方だったんですか」

無感情のまま壱縷はそう訪ねてきた。彼は閑のことを好いていたと聞く。婚約者の俺の事は嫌っているだろうか。

「お転婆で我儘なお姫様だったよ・・・アレはかなり手のかかる娘だ。一条派の者達との夜会の最中に、閑に居場所を狩人共に密告されて死闘をしたり・・・まあ色々だ」

げっそりとした顔をする李土は深く溜め息を付く。かなりの年齢差があったから、婚約者ではなく親の気分だった。当時の一条家の当主、当麻にはロリコンの趣味を疑われたこともあった。アイツが勝手に決めたのに、だ。

「閑様は・・・孤独を感じていた俺の傍に一緒に居てくれました。その時に何度か貴方のお話をされたことがあります」

閑様が懐かしそうに語るこの人の事を俺はずっと嫉妬していた。あの方にどうしてそんな表情をさせるのだろう、どうして傍にいてやらないのだと___。

幼い俺はそう思った。

大きな門の前に停車する車。

「着いたようだな。僕は支葵千里として行くから暫くお前には会えないだろう。気を付けて・・・・・・」

「・・・はい、李土様も・・・」

「行ってらっしゃい」と言えば、彼は神妙な顔をしていた。思わず笑ってしまったが、車を走らせる寸前に窓から手を振ればぎこちないが向こうも振り返してくれた。

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