14.止めて留まるものならば

「李土、さま・・・どうして街へ?」

困ったように立ち尽くす彼の腕を取ってずんずん進んでいく。人混みの激しい街中ではやはりこの顔は目立つ。愛に借りた帽子を深く被り、なるべく顔が見えないように歩いた。

背後では変装の"へ"の字も一切していない藍堂家の当主である文月がいるせいで、注目が集まりせっかくの変装は意味を成さないが___。時折すれ違うヒトの中には、俺を視界に収めると頭を下げるヤツがいる。

文月に聞くと、どんなに変装していても俺が玖蘭李土だとヴァンパイア達には分かってしまうらしい。

「まあ、こんな大きい通りにはいないな」
「だーかーらー、どうしてこんな人間がいっぱいいるところにいるんですか!?」

「静かに・・・ッ!」

耳元で大きな声で言う文月の口元に手を押し付けて黙らす。徐々に人間達にヴァンパイアの存在は知られ始めてはいる。だが、全員がその存在を認めているわけではない。

好意的な者もいればヴァンパイアという生き物を恐れ毛嫌い、ハンター達のように目の敵にする者もいるのだ。

『最初に言っただろう。ハンター協会と共に協力して血のドラッグとレベルEのヴァンパイアが急増している理由について調べてると』

『でもあの件は、貴族級の者たちが調べてますが未だ足取りは掴めていません!レベルEのヴァンパイアを増やしてる純血の君は、こんな人間だらけの街にいますでしょうか』

確かに純血種のヴァンパイアは屋敷に引きこもるか、夜会に顔を出すくらいだ。一部を除いて大抵の純血種は人間を下等生物と見下してる。そんな人間が溢れかえる街に潜むのかと文月は言った。

「なにも純血種を見つけてやっつけるわけじゃない。それらしいところに行って情報を集めるためだよ。僕も人間だから、純血種の相手はできないから」

貴族級の文月はとくに純血種を前にしては逆らうことはできないだろう。最上位に位置する彼らは簡単に下位のヴァンパイアを操ってしまう。

「ここのところ、夕暮れ時に男性を狙っての猟奇殺人事件が五件起きてるらしい。協会側はドラッグを摂取したレベルEが関与してるだろうと言っていた」

「確かにそのレベルEを狙えば何か情報が手に入るかもしれませんね」

なるほど、と文月は頷く。



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