13.時に雨降り

俺は目の前の男の対応に眉間へ皺を寄せる。

「いつもは手紙のやり取りだから初めまして、だね李土さん。僕は樹里さんと悠さんとしか会ったことなかったけれど、君があの人のお兄さんなんだね。二人から色々と話を聞かされていたよ」

にこにこと嬉しそうに笑う彼は李土の手を握ったっきり一向に離そうとしない。手紙でさえあのやり取りだったのだから実物はもっと酷いのだろうと予想していたが、もっと酷かった。人の良い笑みを浮かべる彼は、一見初対面だと好人物であるが___とんだ食わせ者だ。

彼は黒主灰閻、このハンター協会を取り締まる役目にあり自身もハンターの男だ。見た目は三十代くらいの外見だが、齢はもう千年以上。ハンターの先祖達はただの人間であった。

だが始まりのヴァンパイアの女性の血を喰らい、彼らは特異な力を得た。そして極稀にヴァンパイアの因子が強すぎる者が現れ、その者の寿命はヴァンパイアの様に長い。

「挨拶は良い、協会長。単刀直入に言わせてもらうが、最近の元ヴァンパイアの事件と血のドラッグについて何も分かっていないのか」

「本当に直球だね・・・悠さんから、面倒なことが嫌いな人って聞いた通りだ。うん、相手側の純血種もこちら同様にかなり慎重に行動してるみたいでね・・・痕跡すら見つからないんだ。

ドラッグは現物が手に入ればね解析できるんだけど」

風の噂だと例のヴァンパイアはふらりと街に下りては適当な獲物を探して襲っているらしい。ヴァンパイアは記憶操作もできるから、襲った相手の記憶を消してしまえば証拠の隠滅など簡単だ。

「何か分かったらすぐに連絡するよ。時折、元人間のヴァンパイアの狩りもお願いするかもしれないけど」

「それは別に構わない。本来ならばこちらの勝手で、ヴァンパイアにしてしまった者の世話をするのが当たり前だから」

対ヴァンパイア武器もあることだし下級のヴァンパイア狩りなら今の体でも出来る。たまにでも体を慣らさなければ鈍ってしまうからな。

「そういえば、愛ちゃんがね李土さんは寂しがり屋のウサギだって言ってた」

「ウサギ・・・」

(愛は何を言っているんだ・・・)

「うん、仲良さそうで良かった。あの子達にはカナメ君しかいなくて、その懐いてた伯父さんがいなくなっちゃって暫く塞ぎこんでたから・・・話でしか聞いたことがない貴方にどう接すればいいのか悩んでたみたいだから。

でも心配いらなかったね」

うんうんと頷く灰閻に俺は暫し黙り込む。初めて聞いた話だったから。

「・・・僕は、あの子達を大切に思うカナメや他の者達の分も・・・あの子達を愛してやろうと決めてる。

それが彼らにとって、必要なものであるかは分からないけど・・・長生きしてるといっても二人はまだ子供だ。大切な者達の忘れ形見を僕の寿命が続く限りは見守っていくさ・・・」

「・・・そうだね。それが僕達に出来ること」



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