01.愛に殉じた
「お久しぶりです・・・伯父様。お変わりなく・・・」
妹の優姫が始まりの始祖である枢を人間にして消えてから千年、そしてさらに数百年の年月が経つ。その間に沢山のことがあった。優姫は玖蘭家の当主を継ぎ、純血種とそれ以外の階級のヴァンパイアの格差の取っ払いに取り掛かった。つまり、ピラミッド階級を廃止したのだ。ヴァンパイアの人権も協会と締結し、守られることになる。
特に人間の許可無き吸血行為、もしくは殺人を厳罰にし極刑に以って処すると。純血種を残すための純血種同士の婚姻の強制も無くし、自由に誰とでも一緒にいることが出来ることになったりもした。
次に貴族級の藍堂家の者が吸血鬼を人間に戻す治療薬を開発。だがその薬を使用しても目の前の棺に眠るこの人には効果は無かった。玖蘭の血を最も色濃く受け継ぎ、かつては覇者として君臨した純血の吸血鬼。生まれ持った血と力故に薬では因子を封じ込めることは出来なかったのだろう。
まだ心残りの部分もあるがそれらは次代の者達への課題として任せようと、優姫の次に玖蘭家の当主を継いだ僕は政から身を退いた。
「伯父様。貴方は私の一番の親であり、一番の師でした。貴方が吸血鬼と人間に楔を打ち込んだからこそ現在があります・・・。
僕はとても幸せでした___人間彼らは短命でありながら芯の強さがある。我々、ヴァンパイアには無い強さです。
せめてものお願いです・・・僕の代わりに____僕が一番望んでいた光の下でどうか今度こそ、本来貴方が得るはずであったものを手に入れて欲しい・・・」
貴方の辛い時をずっとそばで見てきた。あの時は吸血鬼を一条麻遠をどんなに憎んだことか。
「今度こそ・・・今度こそ貴方に最期の機会を・・・」
伯父であり父であり師である彼の頬へ触れ、カナメは術式を発動する。それは自分の命を糧に相手を___人間にするモノ。
玖蘭の始祖、枢がかつて研究していた書物を見つけた藍堂英。それを元に未完成のヴァンパイアを人間にする薬を完成させた。しかしそれはあくまで通常のヴァンパイアに対してだ。始祖の血が強い玖蘭の純血種への効果は薄い。終焉を願っていた貴方をまた非情なこの世に引き戻すことを謝らせて下さい。
次に目覚めた時には___。
(もう、覚えてない・・・ですね・・・)
ピキっと体にヒビが入り、彼の体は滅びの一途を辿る。残された時間はわずかであるが、不思議と死に対する恐怖は無かった。長く生きすぎたせいだろうか。
「違うな」
(貴方の役に立てることが嬉しいんだ)
僕の記憶の一部を受け取るだろうけど悲しまないで欲しい。叔父様が成したことは確かにこの世の中を変えた。だからどうか、後悔だけはしないで。
お父様とお母様も貴方に感謝していました。願わくば、貴方ともう一度言葉を交わしたかったです。
「・・・お幸せに、おじ・・・さま」
ヒビが入り結晶化した、限界の体の彼はそのまま飛散してしまう。残された灰は眠り続ける彼の胸に残るが、風に揺られてそれらは飛び立ってしまった。
まるで、天へ誘われるかのように。そうして僕は貴方の中で眠る。その命が尽きるまで。