「ううーーん!」
やっぱり飛行機は疲れるーなんて思いながら腕を上げて身体を伸ばす。
口にしたら怒る人もいるかもしれないが趣味の延長でピアノのコンクールに出場しに渡欧していて、ついでに色々なところの観光をして今帰国したところなのだ
普段から国内のコンクールに出ているわけでもないし、出場したコンクールがすごく有名なわけでもなく入賞してたわけでもないので盛大なお出迎えなんてものはない。
到着予定の時間はすでに伝えてあったため過保護な親代わりが迎えにくるのを待つだけなのだ。学生時代の頃は大人しかったのに今は頭に超を付けたくなるほどに過保護な兄をだ
―――
「凛音、おまたせ。」
名前の呼ばれる声のした方に顔を向けると、車のキーを人差し指でくるくると回して歩いているスーツ姿の兄・理人が視界に収まった。
「そんな待ってないよ、お迎えありがとー理人くん。それよりスーツ珍しいね」
「仕事からそのまま来たからな。もしかしてかっこいいとか思った?」
心なしかワントーン高くなった声でのナルシスト発言に若干呆れながら、うんうん、かっこいいね。と返事をし手に持っていたキャリーケースを渡す
それを受け取った理人くんはそのまま車へ向かうかと歩み始めたのだが、何を思ったのかこちらへ向き直りそのまま腕を引かれる
突然のことにだがこれはいつものことだ、と思ってもすぐさま対応できず流れに任せると兄の腕の中へと収まった。先ほども述べたようにいつものことなのだが理人くんはスキンシップが激しいのだ。
シスコンを極めた理人くんに対して抵抗しようものならば解放されるまでの時間が伸びるだけなのである程度慣れた今は受け入れるようにしている
私の中では兄というよりとても仲のいい友人みたいに思っているので多少の恥ずかしさはあるけれど、この世界では血の繋がった兄だ。決して恋人ではない
6年前に大学を卒業してから警察という職についた理人くんから今までなかったスキンシップが行われるようになったからだ。妹とは結婚できないのはちゃんと知ってるよね?とつい確認してしまった
もちろん法学部を卒業し就職していわゆるキャリア組とよばれるような人生を歩み始めた理人くんは知っていると返事をしたが、そのスキンシップを減らすということはしないらしい
「それじゃ、帰ろうか」
満足したのか、キャリーケースを引いて車へ向かう理人くんに連れられ横に並んで歩く。空港の駐車場を歩き、理人くんの車を探していると私の知らない車のところで歩みを止めた
これか、と視認した車の反対側へと回り込み乗り込んで口を開く
「また車かえたの?」
「そ。友人の車に乗る機会があってその乗り心地が良くてつい衝動買いしちゃったんだよなー。あ、助手席乗ってドライブするか?この車の助手席に乗るのは凛音が初めてだよ」
「今から?でも今日は疲れてるしまた今度お願い‥っていうか助手席のくだりって彼女にいうセリフじゃないの?」
「彼女いないから。」
助手席に乗ってのドライブは好きだ。それにしてもいい年なんだしいい加減彼女作ればいいのになんて漏らせば、理人くんは彼女はいらないなんて笑って言う
理人くんのことを兄と呼ばず名前で呼んでいるのには特別深い理由はないということにしているけれど、自分に兄妹はいないという前世の記憶が関係している
かれこれ17年はこの世界で生きてきて親のことはお父さんお母さんと呼ぶようにしているけれど、兄や姉は友達に近いようなものなのだ。理人くんとは一回り離れているがそれでも友達のようなものだ
ここは私がいわゆる前世で読んだことこのある世界。それは、名探偵コナンという漫画の、二次元の世界だ
普通、漫画の世界にいるだなんてトリップみたいな現象はありえないだろう。信じられない非現実的な話だ。
しかし恐らく転生トリップと呼ばれるこの状況で、幸運なことに自分の名字は違えど名前は前世と同じなので、名前を呼ばれることに抵抗はない。
よくありがちなパターンとして交通事故だとかなんだかのショックでそのまま飛ばされるみたいなのはあるだろう、しかし自分がいつ死んだかなんて記憶はない。覚えているのは自分が確か25歳位までの記憶程度だ
楽しかったことや好きだったことや基礎学力的なものなら覚えている程度だ。前世の家族構成は両親と自分と愛犬がいたという記憶ばかり強くて、そちらが本来の自分だろうなといつも考えてしまう
この世界で今のお母さんから生を受けて、今の現実があるのにそんな記憶があるせいかはたまたその前世で二次元だとしてみたせいかそれを受け入れられていないのだ
漫画のことで覚えていることは、彼がコナンになる経緯とその彼が住んでいる街が米花町でコナンの周りの人の名前、あとは組織関係の話やらとほかにちょっと色々とというところなくらい。
事件の犯人なんてものは覚えていない。ぶっちゃけるならば漫画だけでなくアニメや映画を含め事件が起こりすぎで、すべての事件のすべての犯人を覚えられるわけがないのである
―――
この車の乗り心地がいいというのは間違いない。世間一般的にも運転している人には申し訳ないことなのだが、助手席で色々と考え思い返しながらついうとうとと眠ってしまっていた。
以前に助手席で眠りこけてしまったときには、安心してくれてるからそうなるんだろだから嬉しい。なんて理人くんに言われた
運転している理人くんがそれならそれでいいかと思っているけれど、それでいいのだろうか‥今まで理人くんに怒られたことなんてない‥そんなことを考えていたら車が止まった
「今日は理人くん自分の家に帰る?」
「帰るよ。凛音は別に寂しくないだろ?今日は裕里香がいるし、凛音の愛犬もいるし、あ、何回か散歩させてもらったから。俺は明日も早いからまた用事があったら呼んで」
「散歩してくれたの?ありがと。まあ寂しいけど、寂しいから聞いたわけじゃない‥。とりあえずお土産助手席に置いとくから」
「お土産ありがとう。そのうちまた行くよ、なんだかんだ色々忙しいから‥一人暮らしが気楽なんだよな。ごめんな」
そんな言葉を聞きながら車から降り、理人くんがキャリーケースを降ろしてくれて、今日はありがとまたねと礼とともに手を振れば、素直なのがいいよね凛音は可愛いなんてシスコン全開の発言をされる
この人はシスコンでは済まされない領域にまで行ってしまっているのではないかと思ってしまうほどである。一緒に住んでいない分拍車がかかっていると考えれば可愛いものだろう‥
理人くんは私が家に入ったら車を発進させるので、車を見送りなんてものはできないのでしない。
ガチャリと一週間ぶりに帰った自宅の玄関を開けると、私の愛犬のゴールデンレトリーバーが私を出迎える。
「ただいま、レイ」
引いていたキャリーケースを玄関の中に入れて手荷物を降ろして愛犬のレイに抱きつく。きれいな毛並みと心地のいい肌触りでたまらない。
ペットの名前の由来なんて簡単で、言わずもがな最初に思い浮かぶものは割愛する。次に思い浮かぶものは光線だろうか、光線というと少しきつい印象を持つが、光といえばまだ表現的には優しい
他に思うのはハワイ語でいう一般的な「花輪」ではなく「絆」「つながり」や「愛しい人」具体的に言うなら「妻」「夫」「恋人」「若い兄、弟または姉、妹」「子供」等々。
それは自分の中に存在する前世の記憶とまだどこか受け入れきれない二次元の現実で。
今いる家族を蔑ろにするわけではない。それでも過去と今が混在する中でも変わらない、自分のかけがえのない家族の名前だ。
この名前を聞いた理人くんは、理人くんの友人だという人物を想像したみたいなのだけれど‥
我が家は外国で楽しく過ごしている両親と、親の援助を受けつつも日本で楽しく暮らす仲良し三兄妹という絵だった。
しかし大学入学から独り立ちした兄・理人のせいで仲良し三兄妹が仲良し姉妹になってしまった。
シスコン要素が薄れたせいか、兄とは思えなくても友人と思っていた人がいなくなったことに少し寂しさを覚えた結果、レイと言う愛犬を私が飼うことになったのである。
結果的に、姉も大学に入って独り立ちして、愛犬と二人の時間が増えたのも述べておこう
レイと離れていた期間はたかが一週間、されど一週間。その期間を埋めるつもりで、もふもふと数分間玄関でじゃれついているとリビングのドアが開き声が聞こえた。
「凛音、もう帰ってきてたの?」
その声の主は、私の姉・裕里香。夕飯を作っていたのだろうかエプロン姿である
「ただいま。理人くんに送ってもらったの。あ、レイのお世話してくれたのありがとね。言われてたブランドのお洋服とお菓子買ってきたよー」
「どういたしまして、お土産嬉しいなありがとう。お夕食食べる?」
ちょうど出来上がったところよ。なんていわれて、久々の裕里香ちゃんの手料理に心躍る。しかし明日の準備やらこのキャリーケースの中身やらの整理を早く済ませておきたいところだ。
キャリーケースの足を布で拭き、部屋の中へといれる
「裕里香ちゃんのご飯食べたいけどあまりお腹空いてないし、今日はもう疲れちゃったし明日早いから寝るよ」
「じゃあ冷めたら冷蔵庫にしまっておくから朝に食べて行ってね」
裕里香ちゃんにわかったとありがとうの言葉を述べ、キャリーケースと手荷物を持ち階段を登り自分の部屋へと向かった。
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