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「ただいま」

もうすぐ帰れそうだと連絡があってからすぐだった。愛しい恋人は、数週間ぶりに帰宅したのだ。

「おかえりなさい!」

たまらず駆け寄って、首に腕を回して抱きついた。上手に受け止めて、マクギリスは愛おしそうに頬にキスをくれる。

「ひとりで暇だったんですよー」

顔を見合わせて拗ねてみせると、マクギリスは穏やかに笑った。

「では今夜は埋め合わせをしよう。ふたりきりでゆっくり過ごそうか」

そんな私をお姫様抱っこのように抱え上げ、マクギリスの部屋へと連れ去られる。
広いベッドがあるこの部屋に入るのは、なんだかんだ初めてかもしれない。

「さみしかった、です」

ぽつりと呟くと、彼の瞳がこちらを向く。せめて今夜は、ずっと一緒に。

「先に私はシャワーを浴びたいんだが、」

「私も一緒に……!」

言いかけたところに被せるように、咄嗟に口走っていた。言ってから後悔して、顔に熱が集まるのを自覚した。が、せっかくの機会を逃したくはなかった。一夜くらい、甘えてもいいだろう、と。

「……ああ、入ろうか」

マクギリスは長い睫毛を伏せて、私の目をもう一度見据えて、低く囁いた。


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シャワーの熱で火照った身体を、マクギリスの骨張った手のひらがなぞるように触れる。

一緒にシャンプーをして、泡のいっぱい浮かぶバスタブにふたりで入って。全身泡まみれになりながら、そこで一度熱いキスをして、肌を寄せあった。初めて見る、普段より何百倍も色っぽいマクギリスに、心臓がうるさくて仕方なかった。

───そして今、キングサイズに近い、広い広いベッドの上に、レースをあしらった下着だけを着せられた私は、仰向けに寝かされている。その上に彼は跨って、そんな私を見つめて、目を細めて妖艶に笑う。

「……アーネ」

耳の横で、息がかかるくらいの近さでマクギリスは私を呼ぶ。反射的にびくりと震えてしまい、思わず目を瞑った。
とうとう、今日彼に抱かれてしまうのだろう。
全身が熱い、痺れる。

前回は結局未遂に終わったのだ。私が、そうしたのだから。
けど今回は違う。彼も私を求めているし、私も彼を求めている。肌が触れ合うだけで身体が熱くなるほどに。

「今夜は、離さないで……ください」

マクギリスの背中に腕を回して、キスをして、ふたりだけの夜がはじまった。


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甘い感触が残る首筋を気にしながら、今日もギャラルホルン本部──ヴィーンゴールヴで任務をこなす。

今日はずっと石動に付きっきりだ。何故かといえば、マクギリスは朝から会議に出ていて、缶詰状態だからである。要するに、会えていない。
まあ下手に会うと恥ずかしくなりそうなので、その方がむしろいいのかもしれない、などと思いながら。

「体調は大丈夫か?」

不意に石動が振り向いて声を掛けた。マクギリスの執務室の扉を閉めたときだった。

「え?突然どうしました?」

「いや。顔が赤いからだ」

言われて慌てて両手で頬を隠した。顔が熱いのは気のせいではなかったらしい。

「すみません、大丈夫です。健康ですよ」

「……なら、いいが」

あまり納得していなそうな石動だったが、何かを見つけたらしく一瞬だけ表情が曇った。その視線はどうやら私の首筋に釘付けになっているようで、素直に疑問に思った。

「どうかしました?」

首筋といっても軍服の詰襟でほとんど見えないはずである。何かついているのか、なんなのか。

「……やはり君は、准将の……、」

落胆したような声を聞いたとき、私の視界を茶髪が埋め尽くした───と同時に、詰襟の隙間から手袋越しの体温を感じた。そして、ざらりとした感触がして、反射的に悲鳴を上げた。

石動が、昨夜つけられたキスマークを舌でなぞっていた。






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a love potion