「対策本部、か」

この響きはわりと好きだ。
だが、その前に付くこの「キラ」とは。



「いいかもふ、よく聞け」
「はあ」
「お前は高く買われた」
「えっ、人身売買は犯罪です」
「…そういうつまらない冗談を言うな」

はあ。と同じくやる気のない返事を返すと、不満そうな顔をされる。

「…嬉しくないのか」
「良く分からなくて」
「世界の切り札のご指名だぞ」

分かるか?と確認を取られる。

「…まさか、あの、L?探偵の?」
「ああ」

「えー、そんなこと言っちゃって、また夜神局長のごり押しなんじゃないですかあ」

前にもありましたよねえ、迷宮入りになった事件の捜査だとかで、面倒な仕事チームに私をぶち込んだこと。と嫌味を言ってみる。すると、案の定、呆れた顔をされた。

「…会えば分かるだろう」
「またパソコン中継ですか、あの引きこもり探偵」
「おいもふ、失礼なことを言うな」

この先に居るんだからな、と全く思ってもみなかった事を言われて少しヒヤリとする。聞かれてたらどうしよう。と言うかその前に、彼が人の前に姿を現す?そんな。

がちゃりと少し重たい音を立ててドアが開く。そこは、華やかな室内だった。
中に居た人達が一斉にこちらを向く。
知ってる顔と知らない顔。
みんなスーツ。
仕事じゃないと思って来た私は私服。
こういうのは、苦手だ。

「…もふさんですね、お待ちしていました」

話しかけてきたのは、ダントツに異様な座り方をした男。高級そうなソファに沈んでいる。ひどい隈の上にある瞳が、楽しそうにこちらを向いた。

「はい、初めまして。えーと、Lさんですか、ね?」
「はい。此処では竜崎と呼んでください」
「…竜崎ですね」

何だこのもやし。第一印象ははっきり言ってそれだけ。あと、不健康そうだなとも思った。
ちらりと辺りを見回すと、奥に居る年配の素敵な紳士が目に入る。本当は、あっちがLなんじゃないの?と思ってしまう。だって、こんな若造(同い年くらい、かな)が、あの引きこもり探偵Lだなんて!

「もふこちゃん!」

場違いな程の嬉しそうな声にそちらを振り向くと、意外な人間だった。

「あれ、松田?」

久しぶりの松田は、たいして昔と変わりがない。何十年ぶりかな、いや、何年ぶり?五年くらい?いや、二年かそこらかもしれない。もしかして去年の暮れに会ったかも。そんなことは、どうでもいい。とにかく彼は、良い意味で昔と大差ない。

「久しぶりー!もふこちゃん、どうしたの?君もキラ対策本部希望だったの?」
「あーいや、それがなんかね。局長のごり押しで、ここに突っ込まれたみたい」

少し声の大きさを絞って言うと、竜崎がこちらを見上げた。

「違います、私の推薦です」
「えええ…、本当だったんですか…」

びっくりして、くるりと竜崎に向き変えると、彼は親指を齧っている。指を?赤ちゃんか、この人。いや、そんなことより、本当に世界のLが、私を推薦をした?冗談もこの人だけにして欲しい。

「貴女は優秀だと夜神さんから聞いていましたので、是非と思いまして」

親指を口に当てて、何でもないように言ってのける竜崎。こちとら恥ずかしいので、はあそうですかと曖昧に返しておく。
まあ、誉められて嬉しくない訳はないが、彼が無表情だからか、あまり誉められているという実感が湧かないからアレなんだけど。



 


-Suichu Moratorium-