雨脚はとっくに酷くなっている。さっきの晴れが嘘のよう。これが、噂に聞いていたゲリラ豪雨というやつか。初めて痛い目に遭わされた。傘は当然の様に持っていないから、二人で傘もささずに激しい雨の中を走りまわる。

「っどの辺に落としたの?!」

「そんなの分かってたら落し物じゃないだろ!」

「あ、ああそうか、ごめん」

アスファルトの上に、川が出来ている。即席の川だ。このぶんじゃあ、もう携帯なんて、とっくに。

「ああ、ほーすけくん!」

「な、なに?あった?!」

二人同時に、速度を緩める。

「…いや違うけど、」

「なに?」若干呆れ気味のほーすけくん。


「私、雇ってよ。その事務所でさ」

「え、えええ…。いきなりだな、ずいぶん」

「いやちょっとね、走ってたら、クビにされたこと思い出しちゃって。考えてたの」

「…でもなあ、雇うとか決めるのは、成歩堂さんだしなあ…」

「うーー。だめ、かなあ、だめだよねえ」

「う、うううう。なんかオレの給料もキツいらしいから、減らそうかなとか言ってたしなあ」

「あー。そっか、じゃあ厳しいね、きっと」

「うん、本当ごめん」

「いいよいいよ、私だったら本気になればどこでも雇ってもらえるしね」

自分でもちょっと悲しくなる冗談を言った時。
はた、とほーすけくんの歩みが止まった。

どうしたんだろう、と見上げてみる。

そこは、もう、成歩堂なんでも事務所だった。


あーあ、と気の抜けた声が二人からなんとなく漏れる。

ゆっくりとお互いを見合って、なんだかおかしくなった。


ゆるくなってきた雨の中、着いちゃったね、とか、結局無かったね、とか。
全身ずぶ濡れ。
濡れ鼠。
でも、この吹っ切れた感じが、なんとも言えずに楽しかった。



携帯と雨



(あああ!携帯、事務所に置いてってたんだった!)
(ほーすけくんのばっかやろう!!!)
(おや、この子は誰だい?)
(あ、成歩堂さんいたんですか)
(こんにちは!もふって言います!こちらで働かせてください!)
(…うん、これからよろしくね)
(え、え?給料が厳しいって言ってましたよね…)
(もちろんオドロキくんのを減らすよ)
(頑張れほーすけくん!)
(変態おやじ!とか、言えないよなあ…)









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-Suichu Moratorium-