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「そういえば、そんなこともあったかも…」
「思い出した?」
机にヒジを着いてにこにこする、この人。
変わりすぎだ、と思った。
あのときは、こんな雰囲気じゃなかった。
こんなラフな格好なんて、してなかった…。
あの時は、そう、もっとピンクで、確か、変なハートのセーターと、赤のマフラーで、…。
「眉間に、シワ」ビシッと効果音が付きそうな程の鋭い指摘。
「あ、すいません」
よく分からないけど謝っておく。
しかし、謝っても考えてしまう、この人の変わり様。
きっと、何かあったんだ。服装だけじゃない。顔つきもなんだが、何かを越えたような、不思議な…。
「…そっか、気になってるんだね。あのときのぼくと、違うから」
「い、いえ!」
ビックリ。慌てて否定しても、それは肯定と捉えられる。当たり前か。
「気にするなって方が無理だよね」
「いや、本当に、気になってませんよ!」
「ま、そのうち分かるよ」
「そ、その内ですか」
うん、と笑顔で頷くその人。
暫くの沈黙があってから、彼が椅子に座り直した。
「ぼくは、芸術学部3年の成歩堂龍一だよ。よろしく」
「あ。私は法学部の3年、もふもふこです。よ、よろしく、です」
「え、同い年!びっくり!」
「ですね、私もびっくりです。成歩堂さんの方が、年上だと…」
「ひどいなあ」
「あ、いや、良い意味で!」
「まあ、良いけどね。じゃ、敬語はナシで」
うんと頷いた後に、一瞬、年齢を訊こうと思ったけど、なんだかデリカシーに欠けると思い直してやめておいた。
「此所には、よく来るの?成歩堂さん」
「呼び捨てで良いよ。ぼくは、たまに来るだけかな」
「よよ、呼び捨てはやめておく。…から、なるほどくん、でいい?」
「もちろん。じゃあ、ぼくは、もふこちゃんで」
そう言ってにこっとしたなるほどくんは、(なんかどこかがこそばゆいけど)何かを思い出した様に急に立ち上がった。
「本を借りに来たんだった」
「あ!ごめん、私のせいで!」
「あ、いや、そういう意味じゃなくて…」
「何の本?言ってくれれば、分かるかも」
「ええと、マレー・クーパーの…」
「美術書ね、ならあっちだよ」
先程よりは痛みの引いた足を庇いながら、思い当たる本棚に向かう。図書館四階の主だと、明日から名乗ろうか。
「あ、これかな?…他には無さそうだけど…」
「それそれ!ありがとう、助かったよ」
「いえいえ、こちらこそ」
本当に、こちらこそだ。とんだお世話をさせてしまった。先程の救出劇が脳裏を過るが、恥ずかしくなって考えないことにした。
本を一通り捲った後に、なるほどくんは、じゃあぼくはこれで。と微笑んで言った。
「うん、勉強頑張って。助けてくれてありがとう」
「こちらこそありがとう。じゃ」
ぱっと手を降って、ガラス戸を押し、階段を降りていくなるほどくん。
彼が履いていたブルージーンズが見えなくなった。
途端に、身体から力が抜けた。
復活する鈍痛に、現実が見えてくる。
もしかして。
ああ、これ、
「一階に、戻れないかも」
θは笑ってくれたよ
(紳士なのか、そうじゃないのか)
(ロジカルなのか、抜けているのか)
(下に運んでもらいたかった、なんて贅沢、言える訳ない)
20091008 20121022
森博嗣すき。
角度の意味のRは良いとして、θはなんなんだろう。角度を求める問題に使われることが多いから、角度のイメージが強いなあ、と。それだけ。
(実は、矢張の件は捏造だらけ)