松田が小部屋へと消えた後は、知らない刑事さんたちに囲まれ、(当たり前だが)気まずい。さっきから、ちらちら見られているのも辛いところだ。
それはそうと、皆さんは一課なのだろうか。だとしたら格好良い、なんて不謹慎極まりない事を考えていると、先程のおじ様が私に近づいてきた。
そし丁寧な動作で、捜査員全員の前にティーカップを置いてくれた。
その素敵なおじ様(わたりさんと言うらしい)が淹れてくださった紅茶。角砂糖なんか入れずに、ストレート。これが一番。
「うわ、おいしい」
思わず出てしまった言葉にハッとしてワタリさんを見ると、満面の笑み。
「あ、とても美味しいです!」
「ありがとうございます。褒めてもらえるのは、嬉しいことですね」
そう言ってから彼は、ホッホッと楽しそうに笑ったので、つられて私もにこにこしてしまった。そして、もう一口と紅茶を飲もうとした瞬間。もふさん、と事務的に呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、私ですね」紅茶を置く。
「はい、こちらにどうぞ。あ、紅茶は持ってきても構いませんので」
「はーい」
ソファから歩き、少し狭めの別室に入って、かちゃんと後ろ向きにドアを閉める。
お掛けになってくださいと竜崎が言ったので、彼に対面するソファに座る。
彼は、またあの座り方だ。癖なのだろうか。こうして目の前にすると、さっき見た時よりも気になって仕方ない。この座り方を見ていると、なんだか彼のアキレス腱は切れていないのだろうか。とか、そんな余計なことが心配になってきてしまう。
「いつもそういった座り方をなさるんですか」
えっ、と口に出してから、はっと我に帰る。
私の足は、ソファの上。
なんと、足を抱え込んで座っていた。
「っあ、すいません!!ちょっと、色々考えてて、ああ、申し訳ありません」
何という失態。ふざけるなよ自分。いくら落ち着かないからって、何やってるんだ!しっかりしろ!と自分を叱りながら慌てて座り直そうとする。
が、そんな私を、いえ、と片手で制した竜崎。
「特に気にしませんので、大丈夫です」
「はあ」
気にしないと言われても、私が気になるのですが。とは言えず、仕方なくそのままの姿勢で彼の話を聞くことにした。(こういうときは、私の、ことなかれ主義は不便だなと思う)
「因みに、身体を丸めて座る意味を、ご存じですか?」
唐突の質問。これは、まさか面接の内容にはなっていないだろうな。ご存知じゃないぞ。
困るような顔で考え込んでいると、正解を知らないと察知された様だ。彼は座り直すようにして少し揺れてから、話し出す。
「…心理学的に自分に自信がない、もしくは相手との壁を作る為の行動と言われています」
「へー、そうなんですかあ!詳しいですね。もしかして、竜崎もですか?」
私は体育座りみたいなもんで、竜崎のとは違いますけど。と補足すると、彼はにやりとした。
「さあ。心理学は所詮、統計学なので分かりません」
自分で振っておいて、その返しかい。と突っ込みそうになったが止めておく。彼はきっと、そういう人なんだろうと何にも成らない自己完結をしておく。
「では本題に入ります」
▲▼
その後は、幾つかの事務的な質問とキラに関する考え方やその根拠について話して、キラのプロファイリングまでさせられた。
「わかりました。これで面接は終わりですが、何か質問は?」
「じゃあ、幾つか」
そっと右手を挙げると、親切にも人差し指で、ちょいと指してくれた。
「どうぞ」
「えーと、まず、私をこの捜査に引っ張り込んだ理由を教えて戴けたらと思います」
そう言えば彼は、そうですね、と少し考えてから彼は紅茶を飲んだ。そして、きっともう冷え切っていたんだろう、眉間に皺を寄せた。それから、ゆっくりと口を開く。
「態度」
「はい?」
「画面越しに見た報告会での貴女の、どうにもつまらなそうな態度が気に入りました」
「…意味不明です」
はい、実は私も良く分かりません、と無責任な事を飄々と言ってのけ、続ける。
「普通の若手刑事なら、松田さんのように、闘志を燃やしてこの事件に挑むはずです。が、貴女はある種冷ややかな目で会議を見ていました。しかもこんな今までに無いような事件、普通の人間なら好奇心で飛びつくはずです」
「はあ、つまりは、変人だからですか」
「杜撰に纏めてしまえば、そうですね」
変わった人だとか個性的だねとかは、よく言われる方だが、そんな直感的理由でこんな危ない捜査に巻き込まないで欲しい。
「あとは、私と同類のにおいがしたので」
「…私とLが、ですか?」
そんな勿体ないお言葉。私と天才を一纏めにしないでください。と呆れていると、訊きたいことがありますと言われたので、軽く頷いてみせる。
「松田さんとはお知り合いなんですか?」
「あーあ、松田。彼は小さい頃から近所の付き合いってやつで、仲良くさせてもらってます。一応松田の方が年上なんですけど」
「そうなんですか。随分話していらしたので、気になりました」
「すみません、うるさくないように気を付けます」
「…因みに、嫌味ではありません」
念を押すようなその言葉が面白くて、思わずにこりとしてしまった。
「…ああ、竜崎」
「はい、何でしょう」
「えーと、人前に出られるのって大丈夫なんですか?」
ちょっと気になって、と付け足すと竜崎の目が私から離れた。そして少しの間があってから、「これは私が考えた末の結論なんですが、」
「はい」
「愚かだ、と思いますか?」
「えっ?まさか!ただ、竜崎は優しすぎるとは、思いましたけどね」
そう言ってから、目の前にあった冷たい紅茶を飲む。確かにこれは温かい方が数倍美味しい。後でまた戴こう。ついでに、どこのお茶の葉なのかも訊いておきたい。
「あの、」
「ん、ああ!はい!」
すみません何ですか?と訊けば、竜崎は眉を顰めて、「…すみません、言っている意味が分かりません」
一瞬、自分の世界に飛んでいたために、彼が何の話をしているか理解できなかった。少し間が空いてから、何の話をしていたかを思い出す。優しすぎる、というくだりか。
「えーと、つまり、竜崎は世界の脳味噌なんだから、民間人の前にわざわざ出てこなくても良いと思うんです」
「脳味噌…」
「そうです。竜崎の価値は、私などの一般警察やキラの価値とは大きく違うんだから、同じ土俵に立つ必要なんてないんじゃないかと思ったりします」
殺されちゃったら世界が大変です。と言うと、なんだかむっとした顔をされた。
「私にだって、命を懸けなくてはいけない時は有ります」
ムスッとした表情で更に背中を丸める彼は、本当にただの青年みたいだ。下手したら子供。
さすがに上司に対して言い過ぎてしまったか。と思ったので、余計なお世話でした。と慌てて謝っておく。
ひとしきり話し終わって、何となく静まりかえる。
気まずいと感じる私を余所に、竜崎は何か考えているふうだ。
ちらりと気付かれないように彼を見やると、目があってしまった。
「今回の事件は、何もかも完璧に綺麗に終わることが出来る事件だとは思っていません」
何かを決意したような、強い視線に飲まれそうだ。これは遠回しに、何かしらの犠牲は出る、という意味なのだろうか。深い意味は分からない。だが、今回の事件に対する彼の気持ちを何となく垣間見た気がした。
「そうですね。…じゃあ、程々に頑張りましょう」
そう言って右手を出すと、彼は、油の切れたロボットみたいにぎこちなく片手を出してくれた。それをぎゅっと握って、ぶんぶんしてやった。
これから、雲を掴む様な、全く持って前代未聞の事件を解決しなきゃいけないんだな、と意気込んでから紅茶を飲み干す。
冷たいそれが、火照った喉に気持ちよかった。
アールグレイの希望
「…もふさん、」
「? はい」
「…スカートですので、体育座りは、」
「あ、あ、大丈夫ですちゃんと押さえてます!!!!」
て言うか先に言えよばかやろう!!!!