「あっ」
エコバッグが固い床にその身を放った。
ぐしゃりと中に入った卵が割れる音が聞こえる。
「す、すみません!大丈夫ですか?!」
お世辞にもすれ違うだけではあまり記憶に残らなさそうな、だけど優し気な、垂れさがった目尻が印象的な彼は、そう言いながら慌てて手から滑り落ちたエコバッグを拾う。
それを手渡しながら、卵大丈夫かなあ、なんて呟いている。
そっとバッグの中を覗くと、案の定というかお約束というか、卵は三つを残して全てヒビが入っていた。
中には木端微塵になっているものもある。
あちゃあ、と顔を顰めたこちらを見て察したのか彼は再度頭を下げた。
「弁償しますよ。卵」
たった今出てきた大江戸マートの自動ドアを指してそういう彼にやんわりと微笑みながら首を振る。
ずきりと肩口が痛んだ。
「大丈夫です。今晩はオムライスにしようと思っていたから」
「でも」
食い下がる彼をやんわりと制して、小さく頭を下げてから踵を返す。
妙に特徴的な、真っ黒い制服に身を包んだ彼。
それが真選組のものだと知らないほど無知ではなかった。
江戸の平和を守ろうといつも街中でドンパチを繰り広げている彼らはいい意味でも悪い意味でも有名人だ。
だけど、二度と関わることはないと思っていた。