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「なあなあ、侑に告られたってほんま?」
双子の片割れに告白された翌日の朝、教室に入るなり友人が食い気味に話しかけてきた。
「‥‥‥‥なんで知ってるの?」
『あつむ』という名前なのかは知らなかったが、昨日告白されたのは一人しかいない。
奴がきっとその『あつむ』という名前なのだろう。
「多分みんな知ってんで。あの侑が告白するんやもんな。」
友人の話によると、ファンクラブが設立されているほど人気のある彼は、毎回女の子の方から一方的に告白されていて、自分から告白したことは一度もないらしい。
いつも以上に視線を感じたのは、そういうわけだったのか。
「まじか‥‥。」
このクラスに彼のファンがいないことが唯一の救いだが、今後の展開に不安を吐息を洩らす。
「どんな感じで告られたん?そんで名前はなんて返したん?」
興奮気味に質問する友人に対し、簡潔に昨日のことを伝えた。
*
「ドッキリとかあるわけないやん!アホ過ぎやろ。」
「いやだってそんな関わったことないのに付き合ってって言ったんだよ?本気だと思う方が馬鹿だよ。」
私の言動を笑う友人に対し、真剣に理由を並べ立てる。
「侑は名前に一目惚れした言うたんやろ?それに今までは受け身やった侑が告白したんやから、それなりに本気なんちゃうの?」
「本気なわけない。ほら、今までかわいこちゃんに言い寄られ過ぎてさ、美的感覚が麻痺しちゃったんじゃない?それに今の年頃の子はさ、好奇心旺盛だから色んなタイプの女が気になるのかも。今回はたまたま十人並みの私がターゲットってわけで、数日したら飽きるでしょ。」
「あんた深く考え過ぎやろ。本気に決まってるって。」
自分なりに持論を展開する私を、友人が怪訝そうに見る。
「この私に本気だったらB専にも程があるね。」
あるいは一種の性癖なのかもしれない。
「名前は黙ってたら結構美人やん。黙ってたらな?喋ったら残念やけど。」
「そうそう名前ちゃんは魅力的なんやから、もっと自信持った方がええんちゃう?」
すると聞き覚えのある声が、私たちの会話に加わるように背後から聞こえてきた。
「げっ‥‥!」
振り返ると、今まさに話題にしていた彼がニコニコしながら私を見つめていて、ギョッとした私は思わず退いた。
「そんな反応せんといてや〜。一昨日なんかあんな笑顔で手招きしてくれたんに。天使が舞い降りてきたんかと思たわ。」
恍惚の表情を浮かべながら、妄想を繰り広げ始めた。
あれは『ああ、これでやっと帰れる』と安堵の思いで浮かんだ笑顔であって、何も彼のために向けた笑顔ではない。
「それはだいぶ頭逝ってますね。病院行った方がいいんじゃないですか?」
「え〜、至って正常なんやけど?」
「今後のためにも本気で精密検査受けた方がいいかと‥‥。」
あっけらかんと返す彼に、眉根を寄せながら真剣に忠告する。
今後を期待されている人なら尚更受けた方がいいと思うのだが。
「嬉しいわ〜俺のこと心配してくれとんの?名前ちゃんが付き添ってくれるなら病院行こか。」
私の肩に手を回すと、嬉しそうに顔を覗き込んだ。
「‥‥やっぱり私の思い違いだったかも。」
彼の言動に青ざめた私は、逃れるように腕を振り払い訂正する。
「釣れないなあ。なあなあ、LINE教えて?」
「え〜やだ。教えたら『近くのコンビニエンスストアでiTunesのプリペイドカードを買うのを手伝ってもらえますか?』って送ってきそうだし。」
ポケットからスマホを取り出した彼を、ジト目で見つめながらやんわりと拒否した。
「今時そんな乗っ取りせんわ。ええやん教えてや〜。」
「‥‥じゃあIDでいい?」
「教えてくれるん?ちょいと待って‥‥‥‥ええよ。」
逃れられないと観念した私に、嬉しそうにスマホを操作する。
「じゃあ言うね、uzaihayakudokkaike。」
「えらい長いIDやなあ。‥‥あれ?出てこんわ。‥‥ってこんなん出てくるわけないやん!なんやねん『うざい早くどっか行け』って。」
流石は関西の人だ、繰り広げられる一人ノリツッコミに感嘆しそうになる。
「私の今の心情を表してみました。ということで早く自分のクラスへお戻りくださいませ。」
「いやや、教えてくれるまでここおる。」
きっぱりと突き放す私に、駄々をこねる。
本当に自分勝手な人だ。
クラスメイトの視線も感じるし、今すぐにでも早く帰ってほしい。
遂には朝のHRでやってきた担任の先生が『おい宮侑〜はよ自分のクラス戻り〜』と注意したことによって、やっと彼から逃れることができたのであった。
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その日の夜、自宅のリビングでくつろいでいると、スマホの通知音が鳴った。
スマホの画面を見た瞬間、一気に血の気が引いた。
それは『宮侑があなたを電話番号で友だちに追加しました。』との通知を目にしたからだ。
すると今度は着信音が鳴り出した。
画面にはナンバーしか書かれていないが、多分あいつからの電話だろう。
自分の部屋へと避難した私は、渋々通話ボタンをタッチした。
『やっほ〜俺や俺!』
スマホから漏れる軽快な笑い声に、耳が痛くなりそうだ。
「すみませんが、詐欺に振り込めるお金はウチにはありません。」
『いやオレオレ詐欺ちゃうって!宮侑や!分かるか?』
「‥‥何のご用でしょうか?」
『特にはないんやけどな。名前ちゃん何してたん?』
けらけらと笑う宮侑に『何の用もなく電話したのかよ』と苛立ちを覚える。
「‥‥今ね、通話終了をタッチしようとしているところ。」
『ちょっ待って!切らんといて!』
スマホから漏れる声から、焦っている様子が伺える。
「‥‥私の番号どうやって入手したの?」
『名前ちゃんのクラスの子に聞いてん。一週間パン奢る言うたらすぐ教えてくれたわ。』
なんだそれ‥‥所詮私の電話番号なんて一週間のパン代ほどの価値ということか。
「なんそれ。じゃあ私にも奢ってよ。」
『ええけど、それなら俺と付きおうてな?』
「なんでそうなるのかな。私じゃなくても、他に女の子は大量に転がってるでしょ?」
いつまでも戯言を言う彼を、諭すように話す。
『名前ちゃんと話すとおもろいんやもん。吹っ飛ぶんよ疲れが。』
「‥‥娯楽の一種かよ。」
『フッフ、一人の人間として見とるよ。それに俺の電話番号知ってる女の人、俺のおかんとばあちゃんと、名前ちゃんだけなんやで。LINEは結構知られとるみたいやけどな。』
私の指摘に笑うと、いらぬ情報を公表してきた。
「‥‥はあ。」
家族以外に電話番号を教えたからと言われても、だから何だというのだ。
『名前ちゃんは信用できるんよな。』
宮くんが悲しそうな声で呟いた。
『皆から好かれている人気者は、時として孤独である』と聞いたことがある。
誰に対しても一定の距離感を保ち、誰にも依存しておらず、周囲に対して愛想よく接する事が出来るから人気があるのだろう。
だがそれだと本音をぶつけ合い、心を開ける人がいなくなるのだ。
もしかしたら彼も心に深い闇を抱えていて、誰かに悩みを打ち明けたいのだろうか。
「‥‥友達ならいいけど。」
勝手に彼を同情した私は、呟くように提案した。
『ほんまか!?ほんならめっちゃ頑張るわ〜!』
何を頑張るのかはよく分からないが、嬉しそうな彼に戻ったことに一安心した。
しかしなかなか通話が終わらないので、私はスピーカーに切り替え、塩対応しながら課題に取り掛かったのであった。