Recall/第二話
――結果から、先に告げるとするのならば。零の助太刀、あるいは夏目の忠告があってなお、朔の生活がそうそうに変わることはなかった。状況だけを見れば、むしろ生活の質は悪化の一途をたどっている、というべきだろう。唯一朔が意識し自覚している変化といえば、朔に吹っ掛けられるあれそれの中身が、どんどんエスカレートしていっている、ということくらいか。
やはり、朔に対する宣戦布告の内容は、逆先夏目というたったひとりに関してのことに限られている。一番はじめ、夏目に対しての悪口や悪評に我慢ならずに口を出してしまったのは朔なので、この状況を招いてしまったのもまた、朔そのひとであるのだけれど――朔はそれでも不機嫌そうに、あるいは不満そうに、けれどそれを朔の歌を聞いている観衆には決して気付かれることなどないように――泰然と、ゆるやかに、一定の音程を保ち続けた。
最近は、『五奇人』と呼ばれている例の五人組を推す動きが殊更に強くなってきているようで、朔に挑むため、朔を舞台に上げるためというだけの理由だったそれに、夏目への私怨が乗っかってしまっているように思う。母親の仕事の引継ぎという面はもちろんあるだろうが、とにかく、ここ最近評判の悪かった夢ノ咲の生徒であるというのにも関わらず露出の頻度を重ねている彼らに、多くの――この場で燻っている数々の亡霊は、少なくない悪感情を抱き始めている。
真面目にアイドルの仕事を演じ続け、親の仕事でもある占いの仕事もまともにやってのけ、一定の人気を博している夏目よりも、学院内にはからずも悪評をまき散らし、醜聞に近いものを表出させている朔の方が、よほど『奇人』であると思うけれど。多分、誰かが思っている『五奇人』に、そういうエキセントリックさは求められてはいないのだろう。いや、朔にはその誰かの思考なんて読むことはできないのだけど――あまりにも、怪しすぎたものだから。突出した才を持つ者を祭り上げるのも、それがあまりにも顕著すぎることも、なにもかも、才を持つアイドルたちにばかりヘイトを向けさせることが目的なのではないかと思えば、流石に朔の背筋も冷えるというものだ。
「どうなんですか、そこのところ?」
「……ええっと。あなたはたしか、夏目くんのお友達の……冬海朔くん、でしたっけ?」
「ふふ、はい……♪ 存じていただいていたようで、光栄です。俺が夏目のお友達の、冬海朔ですよ。こんにちは、はじめまして青葉先輩――」
――いい朝ですね。
ゆるりともじゃもじゃの髪を見上げる翡翠色に困惑しているような様子のつむぎが、後退ろうとして、けれどつるりと足が滑ってしまったから、倒れることを予見してぎゅっと目を瞑れば――つむぎの体は、予想していた鈍い衝撃ではなく、とん、という優しい体温に包まれていた。
「こんな時間からお仕事ですか? 俺も、なにか手伝いましょうか。もちろん、お手伝いできることがあればって話ですけど。授業がはじまるくらいまでなら、なんでも言ってくださいね」
「……さすが、夏目くんのお友達なだけありますねえ。かっこいい子だけど……怖いなあ。いまどきの若い子って、こんなこともふつうにしちゃうんですか……?」
「青葉先輩……? あの、聞いてます?」
「え? ああ、はい、聞いてますよ。……それじゃあ、あの端っこの本棚を整理してくれたらなあって思うんですけど」
ぐっと近付いた表情。アイドル科にいて恥ずかしくない、誰よりもうつくしいとさえ口を滑らせてしまいそうなほどに整った朔の顔は、つむぎにとってはかなり珍しいことに、多くの動揺をさそった。
不可思議なつむぎの言動にこてりと首を傾げた朔は、夏目と交わしていた言葉たちの中から青葉つむぎというひとりの人間を思い返し、朝早くの学院で、はやくもその業務をこなしている本人と出会った、というだけの話だ。別段、特別な用事があったわけでもない。すごすごと、けれどこの学院の中でそこそこの悪評を垂れ流しているはずの朔に構うこともなくそう頼むこのひとは、そういった悪逆の徒に対しておそれなど抱いていないというのか、それともおそれを抱くほどでもないという自信に溢れているだけなのか――定かではないけれど。
朔が彼に対してその疑いを抱いたのは、手伝いを言い渡されてからすこし、ぼたぼたと棚の上から落ちてきた本の角に頭をぶつけてもなお、その痛みに対して、あまりにもちいさな反応しかおもてに出さなかったからだ。ひどい鈍痛がつむぎを襲っただろうに、そんな様子など微塵も出すことはなかった。
自分が感じた痛みに対して、どこまでも鈍くあるひと。その身に受けた銃創はひとつやふたつどころではないというのに、それに気付いていて、けれどそれを自覚することを避けて、綱渡りの上で生きるひと。朔はそっと朝焼けののこる翡翠色の瞳を細め、いたた、という空々しさすら感じるような声を聞きながら、目の前、不自然に空いているスペースに、するりと手に持っていた本を差し込んだ。こういう人間が黒幕に近しければ、朔は間違いなく彼に同情の念を抱いてしまうだろうな、という、鬼気迫る確信はある。
「青葉先輩は、『五奇人』と呼ばれているひとたちのことをご存知ですか?」
「えっと……はい、もちろん。それって零くんたちのことですよね? じつは、『五奇人』の構想は、俺もちょっとだけ手伝ったんですよ。ふふ、お友達を手伝っただけなんですけど……♪」
だから身分不相応にも、つむぎがそれを知らないことを願ってしまって。そこに逆先夏目という存在が、その影があるのなら、朔はどこまでも、たとえ石を投げられたとしても、夏目の傍にいてしまうだろうから。もしもそうなってしまった時、朔が否応なく同情を抱いてしまうようなかわいそうなひとが、敵でありませんようにと、祈ってしまっただけだった。
――結局、自分のガラでもない祈りなんか、捧げようとするだけ無駄だったけど。
「それで、『五奇人』がどうかしたんですか?」
「あ、いや……なんでも、ないんです。……本当に」
どうせ、その誰かが今頃せっせとこしらえているだろう壇上に上がることのできる資格もない身だ。そんな心配など意味はないだろうし、むしろしていることを知られたら夏目に怒られてしまうだろうか、くらいのことを思いながら、朔はゆるりとつむぎの瞳から目をそらし、なんでもないというように首を振った。だってほんとうに、なんでもないのだ。あの朔間零すら気にしていないようなことを朔が考えているだなんて、そんなのはあまりにもお門違いすぎる。
朔の片隅にあった小さな違和感。燻った嫌な予感は、夏目が楽しそうに『五奇人』の『兄』たちの話をしてくれていることに任せて、すべてを振り払った。放り投げられてしまった思考が罪深くあることは分かっているけれども、そうするしかないことも理解していて、無理に動くよりはきっと、このまま、なにもしない方がいいのではないか、なんて思いながら。
「お兄さんたちの話をしているときは楽しそうにしてるね、夏目」
「うン、もちろン♪ 『師匠』――日々樹渉センパイだけじゃなくて、あのひとたちはほんものの天才だしネ。あのひとたちに会えたことが、ボクが夢ノ咲に入ってよかったと思える唯一のことだと思うくらいハ。……。ちょっと待っテ。もしかしてだけド……朔ってバ、拗ねてるノ? ボクがほかのセンパイたちの話ばかりするかラ」
「うん、そうだよ。……って言ったら、夏目はもうちょっと俺と過ごす時間を増やしてくれたりするの?」
「……エッ」
「ちょっと」
さすがに恥ずかしいんだけど、どうして黙りこくっちゃうの。朔が拗ねたように宣う向こうで、夏目はウッ、と喉を詰まらせ、じわじわと滲み出す照れた表情を隠すかのように、そっと自分の手のひらで顔のあたりを覆った。どうも朔はそういうことをなんの羞恥心もなく言ってのける男であったらしい。夏目が顔を染めたのに触発されたかのようにぽっと恥ずかしげに目を細めた朔の翡翠の瞳はとろりとはちみつのようにとろけていて、それを眼前にお出しされた夏目は、朔がいる方向から少しだけ視線を逸らし、夕暮れの光の差し込んでいる、そこに窓など存在していないはずの白い壁に目をやった。
『秘密の部屋』。夏目がゆるしてくれたその無人の教室に座り込む朔の姿は、友人の秘密基地に招待されて喜んでいる少年の姿そのものだ。薄青の前髪がゆらゆらと揺れているのを横目に、夏目は机の上に置いていた『実験』の成果の薬が入ったガラス瓶を引っ掴み、はあ、とため息を吐いた。じろじろと見られることのない朔の姿は一見『おりこうさん』な少年そのものだが、奇人と呼ばれている夏目はしかし、朔の方がよほどそれらしいと思ったこともある。朔は歌も上手いし、一芸に秀でるという意味ではピッタリだろう。あの斎宮宗すら一目置いているらしい朔のうつくしいボーイソプラノは、『五奇人』の名と栄光にふさわしいものだっただろうに。夏目がそういった様々な感情を湛えながら朔に視線を戻せば、う、と喉になにかを詰まらせながら、恥ずかしさを滲ませた翡翠色の瞳を細めた。その瞳に滲むのが羞恥だけではないことを知るのは、少なくともこの場では朔のみだ。
「なんか言ってよ、夏目」
「――もしかしていまのって冗談だったノ? だとしたらショックだナァ……朔のほんきの『おねがい』だったラ、別ににいさんたちと会うタイミングを少なく調整するのだってやぶさかではないけどネ、ボクハ」
「いや、それはだめでしょ……」
――だって。朔はむしろ、夏目には『そちら』に寄っていて、寄りかかっていてほしいとすら思っているのだから。
いまや『五奇人』は、この夢ノ咲学院にとって原初の神にもひとしく、すべてを食らってしまう勢いすらある名前だ。おそらくなんらかの意思が絡んでいながらも祭り上げられ続けている彼らの名が後ろに、その前にあるならば、いくら朔への嫌がらせのためとはいえ、容易に夏目に手を出そうとするバカは減ってくれるだろう。朔がそこに含まれていないことについて、朔はすでに納得している、というか、そういった推し出し方をしたいのであれば、朔はむしろ悪手といってもいい。『五奇人』をつかってなにかをしたい人間にとって、すでに学院内においての価値を、扱いを確立させてしまっている朔は、きわめてコントロールし辛いはずだ。いろんな意味で、ネームバリューには事欠かないだろうけど。
正直朔は、夏目が『五奇人』という名を得ることに対して、安心感をおぼえている節がある。あまりにも非人道的、非道徳的な手口を使うことすらゆるすようになってきている有象無象にとって、逆先夏目という男は、格好の的でありすぎているからだ。当初彼らが朔を相手にしていたのが、朔が夏目の傍にちらついている人間だったから、という理由だったし、そもそも夏目のことを目の上のたんこぶだと思っている人間が、夏目に手を出すのを躊躇うようには思わないし、思えない。ともかく、朔の感情を煽るために夏目を害そうとする意思が不自然に膨れ上がってきているのは、如実に感ぜられてしまっている。その悪意をたったひとり受け止めていた朔が、夏目のため、ひいては夏目に直接害を与えられることを恐れている自分のために、誰も使うことのないレッスンルームに座り込んで、ひとり、爪を噛んでいるのは、当然といってしまえば当然だ。誰にも気付かれていない――そのはず。おそらくは。少なくとも朔は、誰かにそんな自分を見られていることを認識していない。影も気配も隠すことができるひとがいるのであれば、朔がその影を認識し、管理できないことは、半分、仕方のないことだし。
夏目の口から語られる話題に『五奇人』のことが多く出ていることに対して、少なくない妬みを、嫉みを抱いてしまっていることは、嘘ではない。けれどもあのひとたちであればおそらく、朔よりも上手く、丁寧な方法で、夏目のことを守り、隠してくれるだろう。あるいはそのひとたち自身ではなくとも、その『五奇人』としての名声が、権能が、夏目のことを覆ってくれるだろうという安心感の方が、どうしても朔に強く根付いてしまっている。
「ネェ、ちょっト」
「え? あ……うん、なあに、どうしたの夏目」
「あのサァ、『なに』じゃないんだけド? ボクの話、ちゃんと聞いてるノ? ボクとおしゃべりしたいって朔が言うかラ、こうやって休み時間に一緒にいるのニ……。まぁいいカ。朔、最近疲れているみたいだシ。ボクがよく眠れる魔法でもかけてあげよウ……♪」
「ああ、こらこら。そうやって『魔法』を安売りしたりするのは感心しないな〜? あはは、でも心配してくれるのはうれしいかも。……毎日ライブ対決吹っ掛けられたりしたら、そりゃあ多少は疲れちゃうよねぇ」
「断ればいいのニ。キナ臭いシ、これを自称するのは権力みたいなものを振りかざしているみたいであんまり好きじゃないんだけド、朔なら存分に『五奇人の逆先夏目』の名前を使ってもいいんだヨ」
「ええ? 夏目のことを巻き込むつもりなんて、俺にはいっさいないんだけど……?」
なにかを隠しているのではないか。そういった類の琥珀の視線がつらぬいた朔の翡翠は、けれど夏目のそれから逃げるかのようにゆっくりと逸らされた。巻き込むつもりはないと宣った自分の口が、なにも思っていないような顔をして嘘を吐いた自分の声が信じられない朔は、内心、自分を嘲笑いすらしたけれど――実際、これがベストだとも思う。元からこの話に関わっているはずだった夏目から、朔はなにも知りませんよといった様子のまま、そっとしずかに、梯子を外す。決して夏目に気取られないように。おそらく、真実を知った夏目には、怒髪天を衝く勢いで怒られるだろうなあということを予想しながら、朔はいままで浮かべていた常の通りの笑顔を、ふ、と苦みを含んだものに変えた。
「夏目と仲良くなってから、やっと真面目にテレビを見るようになったんだけどさぁ? この間、夏目が出てた番組を見たんだよねぇ。内容もすごく良かったし、占いも当たってるって言ってたし……。ごめん、タレントさんの名前がなにかは忘れちゃったんだけど、でもすごいよね夏目、なんなら俺も占ってほしいなぁ、な〜んて――」
どう考えても、露骨すぎた話の逸らし方だ。ここに演技監督――あるいは『五奇人』のひとりである渉がいたのなら、それ以上なにも喋らせることのないままに朔を帰らせていたであろうその科白に、しかし夏目は呆れたようなため息を吐きながらも――仕方のない子だなあと思いつつも、乗ってやった。冗談だよと続けて、小さく、乾いた笑いをこぼしそうな朔を見ることなく、夏目はいいヨ、と、なにも考えていないかのように答える。
「え」
「だかラ、いいヨ。なにについて占ってほしいのかナ、朔ハ?」
その代わり、当たるかどうかは保証しないヨ、と。もちろん当たる確率の方が高い自信はあるけれど、百パーセントではない、と。どこからか――とはいってもここは『秘密の部屋』だから、多分どこかに収納されていたのだろうけれど――タロットをさっと取り出した夏目に、朔は驚いたように目を見開いた。興味はたしかにあったけれど冗談で、普段なら仕事の上、あるいはお金を払って正式に依頼を受け付けているであろうそれを、まさか無償でやらせるつもりもなかったのに、けれど夏目はその細い指でしっかりとタロットを繰っている。
おそらく、大アルカナのみのものだろう。トランプのそれよりもずっと薄いカードを繰っている白い指先から、朔はそっと目を逸らした。母は占いとかそういうスピリチュアルなものを信じて賭け事に挑むような人間であったけれど、逆に父と朔は、占いも、その先にあるマジカルな『大いなるもの』の存在も信じないような人生を過ごしてきて――けれど、いまの不安渦巻く状況で出されたカードの意味が、もし、悪いものであったとするのなら。
出てもいないカードの絵柄におそれを抱いているのが、すでになにもかもをおそれている朔の環境をあらわしているようで、朔はそっとしずかな息を吐いた。こんなままではいけないというのは、よく分かっているのだが。
「はイ、二枚引いテ」
「二枚? どうして」
「保険だヨ」
先ほどまで夏目が持っていた薬を入れたガラスは、ついさっきタロットに持ち替えられた時に、からんという音を鳴らして、机の上に置かれている。朔はそれに腕が触れないように気遣って、そっと夏目の広げたタロットに指を伸ばした。
なんの保険のために二枚を引かなければならないのか、夏目は朔には語ってくれない。朔は首を傾げながら夏目の誘導する通りにカードの山札からそっと二枚を引き抜いて、その裏側の絵柄から目を逸らすようにきゅうと目を瞑り、手のひらを広げている夏目にそれを手渡した。思い浮かべたのは、近い未来のこと。もう少し、ここ一年、あるいは翌年、自分が、夏目が、どのようになっているのか――もしくは、夏目が無事なのか、どうか。
「マァ、良くはないネ」
「え、よくないの」
こういうのは気分だヨ、と。渡されたタロットを見ながらあっけらかんと言い放った夏目は、あまりその出目を気にしていないようだった。引導を渡される罪人のような気分の淵に立たされた朔の、不安に染まり切った翡翠の瞳に気が付いたのだろう、夏目は朔を安心させるかのようにふんわりと笑って、するりと朔の手の甲をなぜた。
「あまり気にしないことも大事だヨ、朔。不安そうな顔じゃなくテ、笑っテ――それでも怖いなラ、ボクに身を任せてくれても構わないけド」
「そんなこと言っていいの、夏目みたいな占い師――ううん、古きよき『魔法使い』が」
「ボクたちが使うのハ、誰かをしあわせにするための魔法だからネ。結果は自分デ、それでもだめならボクらのひみつの『魔法』デ、いいものにしていくんダ」
だから本当に、気負わないでネ、と、夏目は言う。
「太陽の逆位置に、吊るされた男の正位置。こうも綺麗に大凶を引いていくとは思わなかったヨ」
夏目の薄い手のひらから、するり、ぱらぱらとこぼれおちてきたカードの柄を見れば、おどろおどろしいものがうすらと見えた気がして、朔はそっとそれから目を背ける。夏目に取られている手のひらだけが自分の熱を保っているような気さえした。
「結果が悪くたっテ、朔ならなんとかなるでショ」
「適当だな。それでいいのか『魔法使い』?」
「ボク、朔のこと信頼してるかラ♪」
「あ、うん、そう……」
ありがとうって言うべきなのかな俺は……。
ご勝手ニ?
……突然冷たくなるじゃん。
琥珀を煮詰めてどろどろに溶かしたような、危ういうつくしさのある瞳が、朔の揺れ動く翡翠のことをぐっと下から覗き込んできて、朔は夏目の琥珀をきっと見返す。
「気を付けて」
「……やっぱりだめなんじゃん……」
「保険だヨ」
「なんの?」
「ふふ、ひみつ」
朔に対して要領を得ない忠告ばかりしてくるくせに、その保険がなにに対してのことなのか、夏目は一切教えてはくれなかった。――朔が心配しているのはどこまでも夏目のことだけなのに、それを告げることができなかった朔も、もしかしたら、夏目と似たようなものだったのかもしれないけれども。