朝チュン


まず確認したのは運転免許証という名の本人確認だ。しっかり合っていて良かったというべきか…。間違ってたらさすがに追い出す予定であった。

とりあえず、このアパート1LDKのリビングダイニングキッチンを新開君に貸して隣の部屋はもちろん私の部屋でそこには絶対許可なく立ち入るなと言った。さらに他人を連れ込むな、冷蔵庫のもんを勝手に食べるな、調理は交代、あとのルールは後に決めてくからと言ったらすんなり分かったと返ってくる。
そう、冷蔵庫の中の事は先ほどの食欲をみて言っておかなければと思ったのだ。それはもちろん正解だった。

「それよりもなまえさん、こんな時間だけど寝なくて良いのか?」
「え」

新開君に言われて時計をみるともう12時になりそうだ。食べたまま、いきなりのルームシェアの会話というより討論していたからあっという間にこんな時間だ。明日も仕事だ、食器洗って、風呂入ったりしなければならない。

「〜っ、新開君食器洗っておいて」
「おう、分かった」

腕まくりをしながら食器をキッチンに運ぶ新開君。…おそらくは悪い人ではないよね。
私はというと、食器を新開君に任せて複雑な気分だがシャワーを浴びる。
そしてシャワーに打たれながら考える事なんか今日の事だ…なんでこんな事になったのか。お人好しすぎるだろ自分、色々考えるが時すでに遅い。
さらに言うと、もうパリンという派手な音が聞こえている。この短時間に割ったのかあいつ。やはりこの同居は間違いだったのかもしれない。

風呂場から出て寝巻きに着替える。鏡に映るは見慣れた姿…なんつーか新開君他人なんだよね。これで出て行くのは多少恥ずかしいけどしょうがない、いざ決して出て行く。

「…新開君、割ったでしょ」
「っ! …すまないな、滑っちまった」

私の登場と声に少し驚く新開君。あーもう、気に入ってたのに…。シンクの端に寄せられたお皿の残骸に目がいった。

「…手は切ってない?」
「ああ、悪かった」

少し落ち込む新開君を責められなかった。

「いいよ、シャワー浴びて寝たら?布団出しておくよ。私もう寝るから」
「ああ、ありがとう」

新品の歯ブラシを渡してあげながら風呂場に送り出す。そして割れた皿を新聞紙に纏めて片付ける。あーあ、私だったら割らなかったのに。本当今更すぎる。

旧リビングダイニング、本日より新開君部屋にお兄ちゃん用だった布団をひいてあげる。あとその部屋にあった私の日用品棚を私の部屋に入れる。もともと荷物は少なめの方だからもう少し片付ければ何とかなるだろう。


そして自室にこもった。とはいえ実質引き戸で全て取っ払えばリビングダイニングと一体になるような構造なのだ。何とも心細い。

引き戸の向こうで少し物音…布団を広げる音がする。引き戸を隔てた所に家族でもない彼氏でもない友人でもない人がいるという不思議な雰囲気の中眠りについた。







朝、カーテンの隙間の光と鳥のさえずりと携帯の目覚ましによってのそのそと起き出す。何となくチラッと引き戸を少し開けると新開君が布団で丸まって眠っていた。
ああ、やっぱり夢でない…がっかりするような、朝起きたら全て持ち去られてもぬけの殻よりは良かったと言うのかどうか物凄く複雑だ。

本日金曜、これで明日は休みだ。部屋で天候を気にしながら着替え、メイクなどの身なりを整える。
引き戸を開けて、寝ている新開君をスルーしてキッチンに立ち朝食を作る。つーか、今日買い物しようとしてたからパンしかない。もう、パンでいいか新開君も。
1人朝食を食べて歯を磨きながら新開君に声をかける。

「新開君、朝ー」

声だけでは起きないので、爪先で横腹を軽く蹴る。手が塞がってるので致し方ない。

「…ん、はよう」
「朝ごはんはパンだから、焼いてでも食べて」
「わかった」

少し目を擦る新開君。にパンを指差して教える。

「んー…おめさん仕事か?」
「そう、帰り早かったら18時。一応今日は私がご飯作るから、あとコレ一応鍵ね」
「ああ、悪いな」

少し眉を下げて言う彼に行ってきますを言おうとする。そんな時に声がかかる。


「ふぁぁ…あー、なまえさん、オレ金がないんだ。車でも借りて荷物運ぶから貸してくれないか?あと昼メシ代も欲しい」
「…」

イラッとして無言で一万円札を財布から出して笑顔の彼に渡した。
渡した一万円札に生めなかしくキスをする新開君。起き抜けのボサボサする髪なのに歳下っていうのになんつー色気…。しかしそれを見て、家計簿ならぬ新開君に貸したお金台帳をつけなければと心に決めた。


25歳の誕生日に転がり込んできたプレゼントは意外と幅も金もとるプレゼントだった。
- 2 -

*前次#