脱兎
新しい制服を着て、箱根学園の正門の前に立った。
これから3年間通う事となる校舎を見つめ、落ちなくて良かったとしみじみ思う。家から近いからそれが一番の理由だ。
小学校からの親友も一緒にだから、非常に心強い。小学校の時は喧嘩やらもしたけど、しただけ仲良くなれたくらいだ。
教室は、探り合いのような不思議な会話が至る所でされていてなんだか面白い。
これで一ヶ月もすれば騒がしいことになるんだよねぇ...そんなことを、呑気に思いながら名簿順に座った席で、私も初めてあった隣の子と今日の日程をネタに距離間をつかもうと不器用な話を繰り広げる。
バタバタと日程は消化して行って、一日は終わった。
1ヶ月もすると当初の予測通り、騒がしいクラスとなった。
このクラスは比較的に男女の中は良く、率先してリーダーシップを発揮する人もいないけど、特別嫌悪感抱くような人もいない、平均的なクラスだった。
ただ、他のクラスの友達からは、なまえちゃん達のクラスはカッコいいひと多いねって、ちょっと羨ましがられたりする、そんな中々当りなクラスだ。
そんな私みょうじなまえはどこにでもいる普通の高校生だ。いや、中学はテニス部で汗を流したけど、もうそういう熱い感じはやめにして、ちょっと美術が得意だったからってゆるい美術部入って放課後はを楽しむこととした気が抜けた女子高校生だ。
そんな私のクラスは、友達から言われたように所謂イケメンが多い。
新開君もその一人だ。男女とも分け隔てなく話すし、強豪自転車競技部にも所属してるらしい。
その中私は、中学のクラスが男女仲良くなかったので、男子との距離間に未だ慣れない。特にカッコいい人とか賑やかな人は見ている分は良いんだけど、一対一で話す時は戸惑ってしまっている今日この頃。
その中でも新開君は明るく色々な人と話すけど、見ていたいけど話しにくい人の代表に入る。
1回話したけど、中身のないような会話をしただけだった気がする。
放課後、美術部として美術室に居たのだが教科書を忘れたことに気付いた。しまったな、取りに行くか。
重い腰を上げて、人気のない静かな廊下を歩いていく。
美術部は別の棟なので、意外と距離がある。
もう夕方だな、夕日が差し込み眩しい廊下を歩いて教室についた。
ガラッと戸を開けて窓際の自分の机に行き、中を覗く。あ、あったあった、これ今日やって明日の課題を終わらせよう。
いそいそ持った所でガラッとと音がした。音の方をみると...イケメンさんな新開君がそこにいた。
忘れ物とかだよね?ちょっとまって、何か喋った方が良いよね!?喋ったことないに等しいんだけど!?脳内が軽くパニックな私。
新開君もなぜか足が止まってしまっている。
無言の見つめあいになった、おそらく10秒にもみたないのに1分に感じるほど心臓に悪い。大きい目に何か吸い込まれていきそうだ。
動き出した新開君は机に行き、机を漁っている。
いたたまれなくなって、何も喋らず逃げることにした。本当すいません、って私ごときが喋らなくても気にもしないだろう。
「あ、あのみょうじさん!」
「...え、」
まさかの呼び止められた。戸を開けた所で。
新開君に向き合う、が逃げ出した後ろめたさから顔を見れないんだけど。
「わ、すれものか?」
忘れ物?新開君が聞いてきた。
「え、あ、そう、そう忘れ物!」
ヤバイやっぱり無視はダメだったのか。いきなりのことで思わずどもりながら返す。廊下側1番後ろの席の新開君と1mないこの距離は居心地が悪い。
...って会話が止まってしまった。
どうしよう、どうしよう、チラッと新開君を見たら真っ赤だった。思わずマジマジと見てしまう。
「れ、連絡先を...ぉ、教えてくれないだろうか?」
「は?はい!」
ほら、同じクラスだろとか続けて言う新開君の声が遠い。携帯を震えそうな手で出し、画面を開く。なぜか心臓が飛び出そうなくらい早いし、手が自分の手じゃなさそうな感覚でしびれる。そんな手でなんとかメールアドレスとかを交換した。
「...え、と」
「あ、じゃぁな、また!」
脱兎という言葉が当てはまる様に駆け出す新開君を見送った。
そしてへたり込む私。な、なんで向こうが照れるの!?いつもそんなんじゃないじゃん!もっとハッキリ喋る人だし、女子に爽やかにセクハラしているのだって見るし!
あーもう、新開君は苦手なはずだったのに、肩透かしを食らうような、何か深みに嵌ったような気がする。
へたり込む私に夕日が当たる。どうか私の顔が熱いのは夕日のせいでありますように。
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