直球
窓から吹いてくる風に長めの髪がなびく、抑えるように耳にかける。そして放課後当番の日誌を書き始める私。もう皆部活や放課後を楽しむ為に出ていってしまって、この静かな教室に残っているのは私と同じ当番の手嶋純太だ。
日誌を書くのは誰の時でも大抵頼まれる。なんしろ日誌を書くのは得意だ、何がと言われると昔からやっていた習字のせいであろう。授業ノートはともかく、こういう外向きの時に非常に高評価だ、まぁ取り柄というものもそんなにないのでここくらいしか出番がない。
日誌を書きながら手嶋を盗み見見る。ウェーブがかった髪が風で少し揺らめいている。黒板を消している手嶋にとってはすぐさま部活に行きたいのだろうが私としてはまぁ好きな人との当番だから、このままで居たい女心というものだ。
そんな秘めた想いも告げることなく今に至る。このただ仲良い状況はどうにも心地よい、ただそれは手嶋に彼女が居ない時までしか続かないのも知っている。どうしたものだろうか。
手嶋は黒板を消し終わって私の前の席に座って私の書く日誌の様子を見てくる。この日誌を部活行く途中にある職員室に出していってくれる予定となっている。
でも、まだかかりそうだ。他愛ない話をしながら手を進めていく。
「...みょうじ、好きな奴いんの?」
使わないシャーペンを回しながら聞いてくる手嶋。タイムリーな話題にシャーペンがとまる。
「えー...まぁいるかな」
目の前にと心の中で付け足しておく。
「へぇ、誰?」
サラッと聞いてくる読めない男の代表手嶋。
「それ簡単に言っちゃつまらないでしょ?言いたいなら手嶋が好きな人言いなよ」
私が気になるからさ。
「んじゃぁさ、どんな奴かヒントくれないか?当ててやるぜ?」
「...はぁ、それ言うならそっちも言ってよね」
「わーかってるってぇ」
本当に分かってるんだかこいつは、ヘラッとして。つか、流れで聞いてみたけどやっぱり好きな人居るのか、もう言う前に振られてるようなもんじゃん私。内心テンションだだ下がり中だ。
はぁ、ここでバレてそれで終わりも良いかもしれない。このコミュニティ能力高過ぎな手嶋だったら、振られても会話くらい平気でしてくれるのではないだろうか。...あ、何かそう思うと気楽にいけるかもしれない。本人にバレる事を覚悟する私。
「えーと、私の好きな人はまぁかっこいいかな。はい...そっちの好きな人は?」
「随分と漠然としてんなぁ...そいつはそれなりにカワイイやつかな」
「漠然としてるのはそっちもじゃん...えーと、あと優しいかな、あと器用そうかな」
「へぇ。俺は、そいつの優しいとこ含めて気を遣う所とかが良いんだよねー」
ほう、献身的な感じの人か。誰だろうか。
「あーあと、私その人の目が好き」
「ん、目?」
「部活してる時とかの熱い感じの目が好きかも」
「部活してんだ?」
あいつかなーとおそらく検討違いの想像をしてそうだ。そんな手嶋にしたり顔だ。そして日誌を書く事につまずいた私は、余白に可愛くないキャラクターを薄く書き始める。
「俺の方は、部活してねぇからなぁ。だからー寧ろマネやってくれたらもっと力だすのにな」
「フフ、そりゃ残念だね。あ!あとその人美人って感じなんだよね、最近特に」
手嶋3年になってからやたら色気というか大人な魅力が出てきた気がするんだよね。
「はぁ?男だろ?そいつ」
少し驚いている顔をする手嶋に思わず笑う。色々予想がこの一言でズレたんだろう。
「そりゃね、あと部長さんでもあって努力家って感じかな...陰でひたすら練習しているところとか好きだったりする」
「...そー。...こっちも色々魅力あるけど、あぁ字が綺麗だよねそこ魅力だと思うわけぇ」
ピタッとノートに書いていたシャーペンが止まってしまう。いや、よく居るよねそういう人。
「あ、そうなんだ。...えーと、あと私の好きな人は結構明るいかな、よく喋るし」
「よく喋んるんだ、へぇ」
「あと、長めの髪と含みありそうな悪い顔も嫌いじゃない」
「プハッなんだそれ」
「え、だってその通りだからさぁ」
「俺の好きなやつも髪が長い奴だな...あと俺も目が好きだね、なんつーか不安そうな目が」
なんでか期待してしまう自分が嫌いになる。これなら普通に当たって砕けているほうが心臓にいいくらいだ。
だから私なりの勝負をしてみることにする。
「...その人さぁ...なんていうか変化球好きなんだよねきっと、嫌いじゃないんだけど直球も投げて欲しい感じ?」
一瞬目を見開いたと思ったら、いつもの遠くを見ているような読めない顔で窓をチラ見した。
「そう...みょうじ直球が好きなんだ?変化球のが好みだと思ってたわ」
「そりゃあ たまには直球もなければ打ちにくいじゃない?」
「そうだろうなぁ、俺の好きな人も変化球上手いやつなんだよね」
「...あっそう」
「多少つれない所も魅力あるけど、そーだなー、不安そうに赤い顔してるのもカワイイんだよな」
「...」
思わず手嶋を睨みつける。と私の机にに肘をついて何か企んでそうな含み笑いのような顔をしてこちらを見つめてきている。
「だーからぁその目がすきだって、...そう気まずそうに髪を耳にかける仕草も好きなんだよね」
...もう手の行き場がなくなり彷徨った末に両手で顔を押さえることにした。なんて言ったらいいのよこれ。
「ぶっちゃけ許してくれるなら今人いねぇからキスしてぇくらいには思ってるぜ?」
なんと言うかこの人に直球投げさせるのは危険なんではないだろうか。何も言うこと出来ずに黙り込む私。これむしろ直球か?変化球に変化球を重ねてまっすぐな気がする。
「つーことでぇ好きな奴の声が聞きたいんだけど、なぁみょうじ?」
「手嶋嫌い...」
「うっわ酷くねぇ?こんだけドストレートに投げ込んだのに打ってくれないのか?」
あぁもう、煽るような自信あり気なそんな顔も好きだ。
「...その自信あり気な顔も好きだし、部活で汗水垂らしてるような辛そうな顔だって悪くない、だ、だから皆より少しだけ特別にしてほしい......ちなみにその赤い顔だって好きかもしれない」
「...はぁ、たまには直球勝負も良いかもしんねぇな」
日誌は、2人で提出しにいった。
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