舞い散る夜桜
凛と咲き誇る朽木家の桜の木は月明かりに照らされ、その魅力はさらに惹き出されている。憂はつい足を止め、見入ってしまった。
「綺麗ね…」
風に吹かれて、桜の花びらは舞い散る。その様子も優美で、見ていて飽きない。
桜はどうしてこうも人の心を魅了してしまうのだろう。
「……憂」
「…白哉」
「夜風に当たるのは体に良くない」
「ふふ、ごめんなさい」
背後から声を掛けてきた白哉は、自分が来ていた上着を憂に着せる。あまり体が丈夫でない憂を気遣ってくれる白哉の優しさが嬉しくて、憂は口元に笑みを浮かべる。
「あまりにも桜が綺麗に咲き誇っていたから…つい見とれてしまったの」
風に吹かれるのは桜の花びらだけではなく、憂の髪もそうだった。それを軽く押さえながらもまた、桜を眺める視線は変わらなかった。
「だけど確かにあまり体を冷やすのはよくないわね…今中へ戻るわ」
そう告げる憂の長い黒髪には見事に桜が絡まっていて…それには思わず白哉も口元を緩めた。
「…憂、少し待て」
憂は白哉に呼び止められ、彼の方へ振り向く。「どうしたの?」と問いかけると、白哉は彼女の髪に絡み付いている桜の花びらへと手を伸ばした。
「花びらが、絡まっていた」
一枚取ったその花びらを憂に見せると、彼女はまた優しく笑みを浮かべた。
「風のせいみたいね…ごめんなさい、また白哉に迷惑を…」
「私は何も兄から迷惑など受けていない。そのすぐ謝る癖は直せ…よいな」
「……はい、白哉…」
ありがとう…と微笑み返す憂の頭を優しく撫で、私室へと連れて行く白哉。そんな彼に寄り添うように憂は隣を歩いたのだった。