貴方と過ごした日々を忘れない
乱菊が二人の姿を見つけたのは、すでに事過ぎた後だった。
以前ギンから聞いた、琥珀と初めて出会った場所で二人は息を引き取り、眠りについていた。
琥珀を離さないとでもいうかのように、ギンは抱きしめていて…幸せそうに笑っていた。
「…っ馬鹿ギン!…こんな形で置いていくなんて…卑怯よ…!残された方の身にも、なりなさいよ…っ!!」
乱菊が涙を零しながら吐いた言葉は、すでに二人には届かず。…そうわかっていても、吐かずにはいられなかった。
周りを気にすることなく、乱菊は声を上げて泣いた。乱菊の涙が伝い落ち、地面を濡らしていく。どれだけ泣いても二人がもう戻って来ないとわかっていても、泣かずにはいられなかった。
表向き、ギンは裏切り者であるため公にすることなく、乱菊はひっそりと二人を葬った。
寂しがらないように、二人すぐ傍に並べて。
少しずつ、二人の身辺整理をしていかなければならないので、二人の私室へ入る。…とはいっても、あまり荷物などなく、すぐに片付けも済んでしまうだろう…と思った矢先、乱菊の視界に一つ気になるものが目に入った。
「……これは…?」
綺麗な机の上に置かれた一枚の紙きれ。そこには文字が綴られていて、乱菊は手に取った。それに目を通していくと…乱菊は少しずつ胸にこみ上げてきたものをこらえるかのように、胸元を抑えた。
「…っ琥珀……!!」
それは…あの日、戦場へ向かう前に琥珀が書き残した乱菊宛ての手紙だった。それをすべて読み上げて頃には、乱菊は再び涙を浮かばずにはいられなかった。
乱ちゃんへ
急に飛び出して、ごめんなさい。
乱ちゃんは外に出ちゃだめだよって教えてくれたのに、
琥珀は言いつけを破って、ここを出ます。
どうしても琥珀はギンちゃんに、会いたい。
ギンちゃんが悪いひとでもいいよ。
ギンちゃんが、だいすきだから。
ギンちゃんといっしょにいたいよ。
ギンちゃんがいなくなってから、
琥珀はずっと乱ちゃんを困らせてばかりでした。
本当にごめんなさい。
乱ちゃんはずっと琥珀の傍で、琥珀の心配してくれて、
琥珀はすごくすごくうれしかったよ。ありがとう。
乱ちゃんは琥珀のあこがれで、だいすきなお姉ちゃんでした。
乱ちゃんに抱きしめてもらうのがすごくすきでした。
よしよしって、頭撫でてもらうのがだいすきでした。
琥珀、言いつけ破る悪い子でごめんね。
乱ちゃん、ずっとずっとだいすきだよ。
あの小さい体で、琥珀は悟っていた。
ギンに会いに行くということはもう二度と戻って来れないことを。もう、乱菊に会えなくなることを。それら全て悟り、この手紙を残し、この場を去ったのだ。
もう一度大好きなギンに会うために。
「…ほんと、ギンには勿体ないくらいよ…!」
純粋に、真っ直ぐにギンを慕い、その想いを貫いた琥珀。まだ若すぎる少女の死を、嘆かずにはいられなかった。
ねぇ、琥珀。
ギンにちゃんと会えた?
寂しい想いをいっぱいさせたんだから、
ギンのこと、ちょっとは懲らしめなさいよ。
…なんて、ギンに甘すぎる琥珀には出来ないかしら?
だったら、寂しい想いを埋めるくらいいっぱい甘えさせて貰えばいいわ。
きっとギンは喜んで可愛がるだろうから。
……琥珀、バイバイ。
また会ったら、よろしくね。