彼、彼女の守り方
「…ほんとごめんね、いきなり押し掛けたりして……」
「ん?あー…気にすんな!銀さん、菜子なら大歓迎だから!……それより、気になることがあるんだが……」
総悟、トシの二人が万事屋を去り、二人きりとなった菜子と銀時。菜子が申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にすると、銀時は普段のものより声色を低くし、話を変えた。つまりは真面目になったということだ。
菜子は銀ちゃんの言いたいことは察していた。しかし、菜子は敢えて態度を変えなかった。出来ることなら…あまり触れてほしくない話題だった。
「銀ちゃん、ちゃんとご飯食べてるの?また昔みたいに糖分ばっか……」
「菜子!」
…だが、そんなに甘くはない。彼だっていきなり自分が江戸に来たことも、これから江戸で住むっていうことも突発的すぎることに不自然を感じないはずがないのだから。
「…お前、高杉とはどうなったんだ?」
……やっぱり、そのことだと思った。銀時の口からその名前を聞いたとき、一瞬、菜子の動きが止まった。
「……晋助は、元気にしているんじゃない?」
「そういうことじゃねぇよ。大体なんでお前、高杉といねぇんだ?お前等は恋人……」
「っ、私……晋助から離れたの」
「…は?」
菜子の発言につい間抜けな声を出してしまった銀時。二人がどれだけ互いを愛し合っていたか…昔、すぐ傍にいた銀時は嫌と言うほど知っている。
「私……晋助といるのが、辛くなって…勝手に、離れてきちゃったんだ…」
菜子の声に震えが生ずる。動揺しているようで…情けないものだった。
「…待てよ、お前等戦争が終わった後、一緒に幕府から逃れたんだろ?ヅラからそう聞いてたぜ?」
「…ねぇ銀ちゃん、私ね…刀を捨てたの…」
ずっとずっと…刀を片手に幾つもの戦場を切り抜けてきた。そのすべを教えてくれたのは恩師…松陽先生だ。自ら、守れるようになりたくて手にした刀…それを自ら手放した。
「戦争以降、剣は一切振ってないし触れてもいないの。…もう、人の命を奪いたくないから」
自分の手は、血で汚れている。あの戦場に出る前に誓ったんだ。躊躇なく、ただ目の前の敵を斬り、守りたいものを守る、と。そのためなら自分の命も惜しまなかったほどだ。
だけど、それをやめた。刀を敵に向けるだけが、守る方法じゃないと気付いたから。
「…戦争が終わった後、一緒にいた晋助にそのことを告げたらあっさりと承諾してくれたわ。…それもそうよね、だって晋助は私が刀を手に取ることを最後の最後まで反対していたのだから…」
昔は、どうして晋助は私の道を邪魔ばかりするのかと怒りをぶつけていた。わからなかったから。刀を手に取るという本当の意味を。その重みを、つらさを。
だから、もう刀を手に取らないといったとき…少なからず晋助の表情は優しかった。
『…いいんじゃねぇか』
『…え……?いいの?私、剣の腕はそこいらの男の人よりも上で……』
『オメーに、血生臭いのは似合わねぇからなァ…心配するな、菜子は俺が必ず守ってやらァ』
『しん、すけ……っ』
『んな辛気臭ぇ顔すんじゃねぇ、お前は俺の隣で笑ってりゃいい』
『…ありがと……晋助……』
そう言ってくれた時の、晋助の表情は今でも消えることはない。ずっと自分の脳裏にこびりついている。
「晋助は先生がいなくなったことで傷ついた私の心情を察してくれて……自分も辛いのに不安がる私を優しく包み込んでくれた…」
晋助の温もり、声、匂い、優しさ、気持ち。晋助の全てが、私を癒してくれた。ただただ、嬉しかった。無邪気に喜んでいた。
「…けど、私は晋助に何もしてやれなかった」
剣を捨てた私は晋助を守ってやれなかった。晋助にはいつも危険が付き添うというのに…晋助は自分の身よりも私を守ろうとしてくれた。
晋助が私を庇う度に、彼の体には傷が出来ていった。
晋助は、もう自分の手の届かない存在になっていったのに…それを私がしがみついているだけなんだと…気づいてしまった。
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