就職決定
「ほ、本当に私なんかがお邪魔しちゃってもいいんですか?」


「はっはっは!気にすることはないぞ、菜子さん!もうすぐトシや総悟たちも見回りから帰ってくるだろうし、せっかくだし彼等を待っててやってはくれないか?」


「…それは別に構わないですけど」


(……まぁ、午後からでも仕事探しやらは出来ると思うし……)




…ただ、菜子には気になることが一つあった。




(…このたくさんの視線は何…!?)





真撰組屯所の客間へと案内されたまではよかったものの……その部屋の襖辺りから興味本位で覗いている視線がいくつも感じられる。




(…ちょっと、居づらいな……)




ははは…と苦笑しながら、頂いたお茶を口に運んだそのときだった。
ドガーン!と日常生活では決して聞くことがないであろう爆音が辺りに響き渡った。




「えぇ!?」




何故か視線感じていた襖の方からバズーカが発砲されたのだった。





もちろん煙はうざったいぐらい出ているし、そこで見ていたと思われる真撰組の隊士達はバズーカの影響からか倒れてしまっている。そして、もくもくと沸き上がる煙から姿を現したのは……




「おっ!菜子じゃありやせんかィ」


「…そ、総悟!…き、君の仕業なの?この被害の原因は……」


「駄目だろう、総悟!室内でバズーカを発砲させたりしたら!」


(…待って、近藤さん。止めるところが違います!そもそもこんな日常でバズーカなんて……!)


「いや〜変なウジ虫が目に入ったんでねェ、一発片付けときやしたァ!」


「へ、へぇ……」




とりあえず、総悟にはあまり逆らわない方が身のためだと言う事は理解した。





「いや〜菜子。俺に会いに来たかったなら昨日教えやしたメールアドレスに連絡してくれればいいのに」


(…なんか言い方に引っ掛かる気がするけど、そこは敢えてスルーしておこう…)


「や、別にちょっとお礼を渡したら帰るつもりだったんだけど……近藤さんに呼び止められたからね…」


「おい総悟!トシはまだ帰ってこないのか!?」


「近藤さん、土方さんならマヨの摂取のしすぎであの世に……」


「人を勝手に殺すんじゃねぇ!!」





総悟の背後から、怒声がこもった低音ボイスが聞こえてくる。





「チッ…まだ生きてやがったか」


「聞こえてんだよ、総悟!…それより菜子、よく来てくれたな」


「トシ…ごめんね、皆さん…仕事の最中なのに……」


「んなこと、菜子が気にするようなことじゃねぇよ。」


「…とりあえず、二人も帰って来たし…お礼の品も渡したので私は今日はこの辺でお邪魔し」


「近藤さーん、菜子がここで働きたいそうでーす!」


「何!?それは本当か、総悟!」


(……えぇ!?)




予想外の総悟の言葉に菜子は仰天した。




「い、言ってません!そんなこと、一言も……」


「それなら話は早い。俺専属の秘書でもやらせる」


(…ちょ、トシ!?そんな話は一切出てない!私一言もそんなこと言っていないんだってば!!)


「何言ってんでィ?菜子は俺のところに決まってんでさァ」


「お前のところなんか斬りこみだろ!?危ねぇじゃねぇか!!」


「瞳孔開きっぱなしの土方さんの傍にいる方が危険でさァ」


「なんだと!?」


(…待って!そんな無意味な喧嘩は止めて!そんな話は本当に一切も出ていなんだから!!)




菜子が二人の喧嘩を止められず、あたふたとしていると、





「おいおい、お前等静かにしろ!菜子さんも困ってるだろ!?」





近藤がトシと総悟の間に割り込んで二人の争いを止めに入ってきた。それにホッと、息つく菜子。





「そういう大事なことは当の本人が決めるべきだろー?と、言うワケで菜子さんはどこに所属したい?」


「え」


(………ちょっと待ってー!?私が真撰組に入ることは決定なの!?決定事項なの!?)


「ま、待ってください!まず私は真撰組に入るだなんて一言も言ってませんし、入る気もありません!!」





真撰組なんて入ってしまえば…嫌でも剣を使わなければいけなくなる。私は、もう剣を使うわけにはいかないと決めたのだ。亡くなった、松陽先生のためにも……。
何より自分が真選組に入ってしまったら、晋助やヅラ達と敵対することは必定。これだけは何とも避けなければならない。





「第一…私、剣なんて使えないですし…真撰組は男性だけでしょう?」


「まぁ、そうでさァ」


「なら私は真撰組には……」


「はぁ……寂しいでさァ…菜子が入ってくれたら嬉しかったんですけどねィ」


「無理を言うな総悟……菜子が嫌だと言うんなら仕方ねぇだろ……」


「そうだなぁ…本人の意見を尊重して、だけどやはり寂しいなぁ…このむさ苦しい中でも華が出来ると思ったんだが………」


「…うっ…」




(…な、なんか……悪いことをしちゃった、みたい…)




三人がすごい落ち込み出すので、菜子の中で罪悪感が膨らんでいく。




「…せ、せめて隊士じゃなくて、女中ぐらいだったら出来たかもしれないけど……」


「じゃー決まりでさァ」


「え?」




総悟のキッパリした声を聞いて、思わず首傾げる菜子。…何故ならそこには先程までの落ち込んでいる三人はいなくて、よっしゃーと嬉しそうに拳を掲げている三人しかいないのだから。




(…あれ、私…もしかして…もしかしなくても、はめられた!?)


「とゆーわけで、これからよろしく頼むぞ!菜子さん!」


「は、はぁ……」


「いーですかィ?俺以外の野郎に半径3mは近づいたら駄目でさァ。特にそこにいる奴とか」




総悟の指差す方向には瞳孔開きっぱなしで眉間に皺を寄せているトシであって……





「それはてめぇだろうが!!」


(こんなハチャメチャな彼らの関係がなんだか羨ましいなぁ、って思ったのは秘密にしておこうかな…)





ということで、菜子の就職先が見つかったのだった。



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