新生活の始まり
「まじでか!?」
「まじ…なの」
あの後、一旦万事屋に帰った菜子は銀時に真撰組の女中にならざるを得なかったことを報告すると銀時は大声を上げて驚いた。
「あー…やっちゃったよ〜…やっちゃったよ〜!」
「え、何が?」
「あのなー菜子、アイツ等がどんな汚い奴らかわかってねぇっしょ!?」
「…そりゃ…昨日会ったばかりだし……」
「お母さんは菜子をそんな風に育てた覚えはありませんー!」
「もう銀ちゃんってば!」
…どうやら、銀ちゃんは私が真撰組と関わるのが嫌みたいで、ブスッと不機嫌そうな顔つきになってしまった。
「大丈夫だって!住むのはこの近くの貸家だし、銀ちゃんちにちょくちょく足運ぶよ?」
「……第一、お前はいーのかよ?」
銀時を宥める言葉を掛けてやる菜子。すると先程とは違う、真面目な口調に変わった銀時の様子に菜子は若干動きを止めた。
「…何が?」
「おっま!……真撰組は幕府の犬って言われていることぐらい知ってんだろ!?」
「…それが?」
「…辛くねぇのかよ」
自分たちを裏切った、幕府の元で働くことを、もしも高杉が知ったらどうなることか…容易に想像つくではないか。なのにそんな軽率な振る舞いをしていいのかと銀時は言いたかったのだ。
「銀ちゃんが言いたいことは、わかったよ」
「…平気、なのか?」
「正直、幕府の元に働くだなんて…嫌」
攘夷戦争で、幕府のために天人を追い払おうと戦った私たちを……幕府は切り捨て、見捨てた。そのせいで仲間は処刑され、幕府に追われ……酷い目に遭わされた。
「…幕府や天人を恨む気持ちに変わりないよ。今までもこれからもずっと。…だけど、真選組の女中として働くのとは別だよ。私、真撰組の人達自身は嫌いじゃないし」
銀時ににっこりと微笑む菜子からは偽りのものは感じられない。銀時はあ〜…と言いながら頭を掻く。
「ったく、菜子は毎回毎回無理しやがって!なんかあったらちゃ〜んと銀さんに言えよコノヤロー」
「…ありがと、銀ちゃん!」
無邪気に銀時に抱きつく菜子に、理性を抑えながらも銀時は彼女の髪を撫でた。
(この場面を高杉に見られたら…俺、ブッ殺されるな……)
銀時の背筋に嫌な冷や汗が伝ったが、敢えて気付かないふりをしたのだった。
「銀ちゃん〜神楽ちゃん〜新八君〜!夕食出来たよ!」
「わぁ〜!菜子、料理上手アル〜!!机の上の料理が輝いているネ!」
「わっホントだ!いつもの食卓では見られない!!」
神楽と新八は机の上に並ぶ料理の数々に驚きを隠せない。
「さすが俺の嫁だな〜」
「私、銀ちゃんのとこにお嫁に行った覚えはありません!さぁみんな、たくさん食べてね!おかわりもあるよ」
「手厳しいなぁ…菜子ちゃーん?」
「やったぁアル!このまま菜子が江戸に居てくれれば毎日がご馳走食べれるネ!」
「こんなのでよかったらまたお裾分けに来るからね」
「菜子さん、その様子じゃ働くところとか決まったんですか?」
「そうなの、新八君。真撰組の屯所で女中やることになったの」
菜子がそう告げた途端、カラーン…と、神楽と新八の手から箸が離れ、床に落ちた。
「…あれ、お口に合わなかった…?」
「…んで……」
「え?」
「なんであんな奴らのところに行くアルかぁぁ!?」
「危険だ…危険すぎる!!」
「え、えぇ?」
二人の態度が激変したことに、菜子は戸惑わずにはいられなかった。
「菜子!もしあのサディストに苛められたらあたしに言うアル!ギッタギタのボッコボコにしてやるネ!!」
「特にあのストーカーゴリラには気を付けてくださいよ!!」
「…え、ストーカー…!?」
「ほーら言ったろー?菜子、アイツ等は危険な奴らだ〜って」
「アハハ…だ、大丈夫だよ!……多分」
万事屋のメンバーの反応っぷりに苦笑しながらも、明日からどんな波乱の一日が始まるのか少し楽しみになってきた菜子なのだった。
(ねぇ、晋助。貴方は今、何を思い、何を考えていますか…?私はこれからの生活のことと…貴方のことで頭がいっぱいです…)
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