君を、愛す
十一番隊に書類を届けると、琥珀はイヅルの言葉を思い出し、ゆっくりと…マイペースにぶらぶらと散歩して気分を紛らそうとしていた。






「…ギンちゃんの…ばーか…」





何となく、深い意味もなく呟いた言葉。だけどそれが琥珀の本音だった。






「…琥珀、寂しいよ…」






ギンちゃんは、琥珀と違って…一人じゃないから。乱ちゃんや吉良君や、ギンちゃんのことを好きな女の子が傍にいる。琥珀にはそんな風に思える相手は、ギンちゃんしかいない。ギンちゃんがいなくなっちゃったら…一人ぼっちだ。






「……っ」






だけど、そんなことを言ってギンちゃんを困らせるのはもっと嫌だ。だから我慢するんだ、精一杯。ぎゅっと下唇を噛んで、必死に堪える。寂しくなんてない、辛くなんてない…そう自分に言い聞かすしか、すべがなかった。

涙が込み上げてくるのを感じ、琥珀は顔を俯かせる。ぽたぽた…と床に雫が落ちたそのときだった。




「琥珀」





…大好きな人の声が、自分の名前を呼んだ。顔を上げ、声のした方を振り向けば…こちらに両腕を広げているギンの姿があった。




「…おいで、琥珀」
「……っ…」






おいで、と言われれば…いつもならすぐにギンのところに飛んでいくのに……今日の琥珀はいつものように出来なかった。





「…何も難しいことなんか考えんと…ええから、こっち来ぃ。」
「……待って、琥珀…今、泣いて…」
「ええから」
「…っぎん、ちゃん…」




優しい声で、ギンに呼ばれ…琥珀は耐え切れず足を進める。パタパタ…と足音を立て、ギンの胸元に抱きつく。ぎゅう…としがみつく小さな存在を、ギンもそっと抱きしめ返した。




「堪忍な、琥珀。寂しい思いさせてもて…」
「…ううんっ、大丈夫だよ…」
「そない嘘、無理して言わんでもええ」
「…ギンちゃ…」
「僕も、琥珀と同じ立場やったら…同じ思いさかい」
「……ふぇっ…ギンちゃ…っ」
「…泣かんといて、琥珀…琥珀に泣かれるとどないしたらええんか…わからんくなる」
「…ん」
「今回は…僕が悪かったわ。堪忍な、琥珀」
「……ギン、ちゃん…」
「どないした?」
「……だいすき…」






ギンの腕の中にいる少女が呟いた、何よりもの想いを言葉にする。未だ瞳に涙を浮かべながら、頬を濡らしながらも…頬を赤くして告げた本当の想い。





「…僕は、愛してんで」






涙で濡れている琥珀の頬にそっと口づけ、雫を拭い取る。そう告げると少女は…どこか安心したように、優しい笑みを浮かべたのだった。


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