例えば優しいオオカミ



「ちょ、ちょっとエレン大丈夫だから!」

容赦なく──の袖を捲ろうとするエレンを必死に宥める。
なんでこうなってしまったのか。事の発端は、対人格闘技の訓練中にヘマしてしまった自分が悪いのだが。投げ飛ばされた時にきちんと受身を取らなかったおかげで、ジンジンと痛む腕をさすってた所をエレンに目撃されたのだ。

「おい暴れるなよ。上手く捲れないだろ」

「全然痛くないから!ほんとに平気!それよりご飯、サシャに取られちゃうよ!」

「万が一もあるだろ。腹減ってんなら一瞬で終わらせてやるから」

「や、やっぱ傷は自分で見るから大丈夫だってば」

「はあ?いいから、俺が見た方が早いだろ」

「うっ、...」

目の前にある食堂への扉を指差すも不発に終わる。
グイグイと洋服を引っ張っているエレン。気遣いは嬉しいが、手や腕ならまだしも怪我の場所は二の腕の上の方だ。そこまで洋服を捲り上げるなんて──の乙女心がそれを許さない。
大丈夫だと何度もいっているが、エレンは愛想は悪いこそ本当は優しく、怪我をしている仲間を見つけ放っておけないのだろう。今はそんな優しさがいらないけど。

「なんなんだよ、」と小さく言葉を漏らすエレンにそのままその言葉を返したい。
エレンが譲る気は無いらしいが、──も譲れない。
首を横に振り続ける──を見てエレンは大きくため息をはいた。ほんの数分で済むだろう傷を見るだけに、これほど拒絶され眉をひそめた。

「おい、なんでそんなに嫌がんだよ──!」

「...っ、恥ずかしいからだよ!」

「なにが恥ずかしいんだよ...。対人格闘が上手くいかなかったからか?そんなの苦手なのは誰でもあるだろ」

なんで伝わらないのか、頭を抱えたくなるのを抑える。これがジャンやライナーならすぐに察してくれるであろう。いや比べてはいけない、エレンは優しさからやっている事なのだから。

数分であろうが、──にとっては長い時間と感じたエレンとの攻防は近くを通ったアルミンが終わらせた。

「なにしてるんだい?...早くしなくちゃみんな食べ終わっちゃうよ」

「おぉアルミンいい所にきたな、ちょっと手伝えよ。──が傷見せたがらねえんだ」

いつまでたっても部屋に入ってこない2人を案じてアルミンは扉を開けた。目の前で行われてる2人の様子を少しに不審がりながらも中の様子を伝えた。

「ア、アルミン!!私は全然二の腕なんて痛くないから、って言ってるんだけどエレンが!」

エレンがアルミンに手伝いを要求したが、──としてはいらない協力だ。
どうか察してくれ、そんな思いをかけてアルミンへと力を込めて視線を出す。グイグイとエレンの腕を押しながらアルミンへと訴えかければ、アルミンは少しだけ止まったあとに小さく「あぁ、」と納得した。

「エレン、──はさっき医務室に行ってきてたみたいだから大丈夫だと思うよ。」

「なんだよ医務室行ったのか?」

「そう、そう!医務室行ってきたからほんとに大丈夫!」

アルミンはさも当然だというようにさらりと嘘をついてくれた。
まさか医務室なんて行ってきて無いが、咄嗟にこんな言い訳を考えてくれるアルミンに感謝しかない。緩められたエレンの手に安堵のため息を吐いた。

「それなら早く言えよな──」

「ご、ごめん...」

呆れたようにジトりと視線を寄越すエレンの目が痛くて思わず縮こまる。
なんで怒られているのか、エレンがすぐに解放してくれたら済む話だったのに、と心の中でちょっぴり毒づく。

「ったく腹減った。.....それで、傷は大したことないって?」

「あ、...うん。...すぐ治るって、言われた気がする!」

「そうか!良かったな、」

今日は行っていない医務室の話題に、──はしどろもどろになりながらも必死に頭を働かせた。継ぎ接ぎながらもその返答に、エレンが口角を上げて笑えば、──のほんの少しだけあったエレンへの不満は吹き飛んでしまった。

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