ありふれた夜の話



あれからエレンに開放されて、無事に夜ご飯を食べに食堂へと入った。そこそこ広い食堂だが、訓練兵みんなが集まるであろうこの時間はどうしても席が見つからない。
どうしたものかと手に持ったトレーをかちゃかちゃと響かせ、座れそうな席を探す。
そんな──を見かねてミーナは大きく声をかけ手を振った。

「──、こっちこっち!」

「ミーナ!わ、席取っておいてくれたんだ...ありがとう!」

「もう、待ってたのに──ってば全然来ないからちょっとだけ心配しちゃったよ」

「ごめんごめん、ちょっとね」

口では怒っているものの、──を待っていたというミーナは、やっとのお出ましに頬を緩ませ「早く座って食べよ」と催促した。

そんなミーナの前の席へと、腰掛けるため椅子を引きトレーを置いた。やっと食べれる、と──は1つ息を吐く。

するとミーナの隣に座っていたジャンが持っていたパンをかじりながら──へと声をかける。

「よお──、傷の方はどうだ」

「あ、ジャン。.....なんかジャンといつも近くで食べてる気がする」

「おい。言っておくが全部たまたまだからな!今日だってお前が後にきたんだぞ」

「わかってるよ、もう!小言が多いんだから」

「誰のせいだよ!」

「まあまあ、2人とも落ち着いて」

また始まったと怒りもせずに宥めてくれるのはジャンの仲良しのマルコだ。マルコはジャンの前に座っているため、実質──の隣である。
ここ数日、夜ご飯は必ずと言っていいほどジャンとマルコのセットと近くなるので必然的に仲良くなった。

普段と変わらないような質素なパンを牛乳と一緒に楽しむ。みんなはよく文句を言っているが、訓練で疲れて食欲がない時にはこのくらいの量がちょうどよかったりするのだ。

「それより──、お前まじで対人格闘上達しねぇな」

「いやほんとにそれ...結構みんなの技真似したりしてるんだけど...上手くいかないんだよね」

「まあ技がどうのより体が小さいと不利になるからな、ちゃんと牛乳飲めよ」

小馬鹿にしたように牛乳を飲んでいるジャンをひと睨みしながら、既に空になった自分のコップを分かるようにずい、と前に突き出す。

「飲んでるし、ちゃんと毎日!だからこれからグングン伸びて、ジャンなんて見下ろすから」

「いやそれはそれでキモイだろ」

「でも──も昔より上達してると思うよわたしは!卒業までまだまだあるし、もっと強くなりそう」

「そうだよね、!がんばる!!」

「おいあんま甘やかさねェほうがいいぞこいつは」

ジャンに馬鹿にされていたのもあり、味方をしてくれるミーナに、思わず抱きついてしまいたいがここは食堂。全力で頷いてミーナに「ありがとう大好き」と言えば、ぐっと握りこぶしを作って応援してくれた。

話しながら食事をすればあっという間に時間はたち、食堂は閉まる時間へと近づいた。慌てて残りのご飯を食べて、トレーを片そうといそいそと立ち上がる。
続いてジャンとマルコも部屋へ帰るようで、──の後ろへついた。

「おい結局怪我はどうなんだよ」

「全然!たいしたことないよ、かすり傷。てゆうかジャンなんで私が怪我したって知ってるの?...まさかストーカー?」

あの時の授業の近くでジャンはいなかった気がする。自分のことを気にかけてくれてるのかと思えば嬉しいが、少しだけ気恥しくてとぼけてみれば、ジャンの眉間がぐっと皺を寄せた。

「...お前なあ!心配してるやつに言う言葉かよ」

「うそうそ、ありがとね!ジャンボ優しいじゃん」

「おいその言い方はやめろ!!!」

今度は少し怒りだす反応に頬を緩ませ、面白がってジャンの肩を軽く叩けば、ため息をつかれた。

「あはは、おやすみ!」

「...おー、まあお前も気をつけろよ、...一応女なんだから」

狙ったかのように、ポンと──の怪我の部分を優しく叩き、ジャンは男部屋へと踵を返した。


ジャンの優しさに心がじんとなっていれば、後ろからエレンとアルミンが──を抜かして行った。

「あれ、エレンとアルミンもおやすみなさい!」

「あ...おやすみ──!」

心做しか焦っていたようだが、手を振り返してくれたアルミンとは違い、エレンは「...おう、」と少しだけ不機嫌に返答された。
一体何があったのか、ちょっとだけ気になったが聞く勇気もないのでそのまま女部屋へと向かった。

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