きっと、それは一瞬



なんていうことだろうか。

まさか今日提出の座学のプリントがあったようで、昨日の夜すぐに眠りに耽た──は当然罰せられた。
昨晩といえばミーナとの女子トークが思い出されるが、そんな話よりこの提出を教えてほしかった、と少しだけ項垂れる。

今回の罰とは、巨人の生体をまとめることだ。みんなは出したであろう、1人寂しく図書室で本と睨めっこである。

「──?」

「あれ、エレン。もしかしてエレンも提出忘れたの?」

「...おー、まあな」

人一倍巨人への執念が強いエレンが、まさか課題を忘れるなんて、そう思ったが昨日のエレンがご機嫌斜めだったのを思い出し、ああ、と密かに納得した。

「──も提出しなかったんだな」とエレンが口に出しながら隣の椅子へと座った。

「うん、昨日すぐ寝ちゃって」

エレンが手に持っていたプリントと本を広げ、課題に取り組む姿を見て少しだけやる気を貰った。
黙々と書き綴るが、どうにも昨日のミーナで変に意識してしまう。すぐ左にあるエレンの肩がどうしようもなく気になってしまい、慌てて何か会話を、と口を開こうとするもエレンに先を越された。

「──は、」

「え、あ、うん!どうしたの」

「──はジャンと、その仲良いのか」

「.....ジャン?仲良い、っちゃいいのかな?最近夜ご飯近くで食べてたから、その成り行きで」

なんで急にジャンが出てきたのかは分からないが、会話を求めていた──にとっては好都合である。

「エレンはジャンと犬猿の仲だからね、」

「あいつがいつも急に突っかかってくるんだよ」

そういってあの顔を浮かべているだろうエレンは眉をひそめた。

「でもジャンも本当に嫌いな人にはそんな絡みにいかないから。きっとエレンの事なんだかんだ気に入ってるんだよ」

「はあ?おい、気持ち悪いこというなよ」

「あはは、そうだと思うけどなあ」

「ありえねえ、」とエレンは心底嫌そうに顔を歪めた。

「そういえばこの前ジャンがね、実技試験やった時に、エレンは合格したのか気にしてたりしたよ!」

「それはもし俺が落ちてたら笑うためだろ?」

つまらない課題なんて頭から抜けて、思わずエレンとの会話に胸を弾ませてしまう。ペンはもはや役割を果たしたと言わんばかりにペンケースの中へとしまわれている。

「ジャンも優しいところあるんだけどなあ...」

そよそよと気持ちのいい風が流れ、エレンの短い前髪が揺れている。そこに小さなホコリがついているのを発見し、思わず手が伸びる。
するとエレンから低い声が発せられ、思わず体が跳ねた。

「おい、」

「っ、!...ごめ、ホコリがあったからとろうとして、」

「ジャンの話ばっかすんなよ」

「へ、...」

ギュッと眉をひそめ、少し苛立っているエレンに驚く。そんなにジャンが嫌いなのか、と肩を落とす。

「ご、ごめん、」

「怪我だって、.....俺には拒否してきたのにジャンには触らせてたのすげーむかつく」

「え、あ、ジャンのそれは不可抗力とかいうやつで」

「...」

エレンのジッと見つめてくる大きな目に思わず吸い込まれそうになる。ぱっちりとした目がしゃんと据わって、大人びた、凛々しい表情に戸惑う。

すると机の上へと置いてあった──の右手に、エレンがおもむろに手を被せた。

「!」

「ジャンにほいほい触らせんなよ、あいつなんて何考えてるか分かんねえんだぞ」

「わ、わかった」

右手から感じるエレンの男特有のゴツゴツとしたその手から熱が伝わったかのように、──は顔を少しだけ赤らめた。

「...」

「エレン、あの手、離してもらえると...」

「...」

「...」

「やだっ、つったらどうする?」

口角を上げ、挑発的に目を細めるエレンに心臓が飛び跳ねた。

他に誰もいないため、静かな室内で──は自分の心臓の音がバクバクと動いているのはすぐにわかった。まさかエレンにも聞こえていないか、頭を動かしてみるも正常には動いてくれない。

「エ、エレン...」

「.....悪い、俺もよく分かんねェんだ。昨日、ジャンに触られてる──見てすげーイラついたし、」

「え」

「こうやって、...──に触りてぇって思うようになった」

「っ!!」

「なあ、俺どうしたんだと思う?」

いつの間にか重ねられているエレンの手は力強く握られていた。
分からない、というエレンには悪いが私はそう考えられるほど余裕がない。まだバクバクと鳴り続ける心臓と、赤く染まってるだろう頬。

独特なこの空気が耐えられず、気付けばエレンの手を引き剥がし廊下へと足は動いていた。

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