先程から少し遠くにいるリヴァイのことをちらりと見れば、本人は隠しているつもりだろうが、口元を緩めている──をエルドは苦笑いを浮かべながら見つめた。
今日は普段より暑く、じとりと汗が出てくる。訓練の順番待ちをしていれば、──の隣にいるエルドが一つ息を吐いた後にボソリと呟いた。
「リヴァイ兵長のこと、ずっと好きなんだな」
そう言ったエルドに──は暑さからか少しぼんやりとしながら「うん」、と迷わず答えた。
「凄いな、...。今だから言うけど正直諦めると思ったよ、兵長って女性に興味無さそうだったし」
「そうなの!そこもまたいいの。そんな人がさ、私だけを好きになってくれたりしたら...もう最っ高なんだけどなーー!」
そううっとりして話す──はリヴァイのことを思い出しているのだろうか、嬉しそうに空を見上げた。
そんな──を見て、エルドは肩の力が抜けたのように口元を緩めた。
「今のところ私の人生はそれにかけてるから!エルドも応援しててね」
「ずっと前から応援してたろ?」
「まあ、たしかに...。これからも、ってことで」
そうエルドにお願いすれば、快く了承を貰った──は、「やった!」とまるで両手をあげんばかりに素直に喜んだ。
「──みたいなやつが沢山いたら平和そうだな」
「...それ褒め言葉だよね?」
少し笑いながら言うエルドを、じとりと怪しげに目を細めた。
「ああ、」と頷いたエルドはどうもいつもより肩が落ちているようである。
訓練の時、壁外調査の時、周りを引っ張っていってくれような強さを持ち合わせているエルドは、たまに落ち込んでいる素振りを見せている時がある。そんな時は必ずしもではないが、主に彼女との揉め事が多いいだろう。
村人である彼女と、兵士であるエルド。3つ別れている所属兵団で1番命の危険がある調査兵団に配属されれば彼女の不安もきっと拭いきれない。
「なに、また彼女とケンカでもしたの?」
「あー、いや。まあ、な」
俺ってもしかしてわかりやすいかな、と頬を掻くエルド。
──の先程まで緩めていた顔は、今はもう自らの事のように心配そうに眉を八の字に変えた。
「俺は調査兵団に入った事、後悔なんてしてないけど時々思う。彼女は違う男のほうが幸せにしてやれたんじゃないかって」
そう紡いでいくエルドに、なんて声をかけてあげればいいのか、エルドの彼女への思いの強さを知っているからこそ、──は頭を悩ませた。
「ごめんな、急にこんな事言っちまって」
そう言って話を中断させて訓練に行こうとするエルドの背中に──を声をかけた。
「エルドはさ...私が沢山入ればいいって言ってくれたけど、仮に本当に沢山いても、エルドが選ぶのは今の彼女でしょ?エルドにとって彼女は唯一無二なわけで、それで...それはきっと彼女も同じ気持ちだと思うよ」
「...」
「エルドじゃなきゃダメだよ」
──のその言葉に何か気付いたのか、エルドは少しだけ目を見開いた。
「ま、まあ彼氏がいない私が言っても説得力ないかもしれないけど...」
ごめんね、と申し訳なさそうに言った──だが、エルドは先程より幾分軽い気持ちになったのか、笑顔で「いや、ありがとな」と──の頭をぽんと叩いた。
「おい。こんな所で喋っている時間があるのか?」
「わ、!!」
突如後ろから聞こえたリヴァイの声で驚いた──がびくりと肩を震わせた。
隣にいたエルドも驚いたようで、声は発さないものの目を見開いた。
「リヴァイ兵長!...もしかして訓練見に来てくれたんですか?」
「そう思うなら早くやれ、──よ」
「はいがんばります!ちゃんと見ててくださいね!」
そう言ってまるで嬉しいことがあったかのように──は走り出して行った。
「リヴァイ兵長、もしかして」
「なんだ」
「いや、なんでもないです」
すみません、と呟いたエルドにリヴァイは何も言わなかった。