13

訓練は想像以上にキツイものだった。
リヴァイに大丈夫だと言われても、緊張するものはしてしまう。
先程から張り詰めた空気と、肩に力が入っていたようで、終わった瞬間にドッと力が抜けた。

汗を拭きながら、近くの木陰で座っていれば自然に呼吸は落ち着いた。

時説吹く心地のよい風に、──が目を瞑っていると、遠くから近づいてくる足音が耳に入った。

「──、今大丈夫?」

「ペトラ。うん!大丈夫だよ」

ありがとう、と──にお礼を言って、隣へ腰を下ろした。

「で、どうなのよ」

「どうなのって...なにが?」

──に詰め寄ったペトラが、少し怒った様子で細目で見つめる。

「もう!とぼけちゃって、兵長と付き合ってるんでしょ!?」

そういったペトラに、──は大きく目を見開いた。
そんな──を見て、やっぱり、とペトラは再び確信した。

「なんで言ってくれないのよ、これでもずっと応援してたんだから」

まったく、と大袈裟に肩を落とすペトラに、まさかそんな事を思われてるなんて考えもしなかった──はどうしようかと頭を回した。

「ちょ、っと待って!」

「なによ、否定したってオルオはまだしも、私は誤魔化せないからね」

まだ認めないのか、とでも言いたいようなペトラはため息をついた。
本当の事を言って相談したいのも山々だか、どうしても本当の事は言えない。

お酒に酔っている時に寝てしまい、それから夜な夜な身体の関係が続いてしまっている、だなんて。
仮にもリヴァイといえばこの調査兵団の兵士長である。もし上司とそんな関係になっているだなんて言われたらあまり良い気はしないだろう。

「付き合っては、なくて」

「...」

「本当にわたしの片思いなの、まだ」

そう伝えた──の視線を落としたその表情は、初々しい照れなんかとは程遠かった。
ペトラはそんな表情に、本当にそうなのか、と口を開けた。

「え、本当の本当?」

「本当の本当だよ...」

こうやって改めて考えると、リヴァイと自分の関係がいかに浅く、儚い事に気付き、ズキリと心が痛くなった。

「ええ?!あの距離感で、!?だって、今日の朝、え、」

ペトラの頭の中は今朝のリヴァイと──のやりとりを思い出しているのだろう。直属の部下といっても、リヴァイが女性兵士にあそこまで距離を縮めているのは間違いなく──だけだろう。
どう見ても特別扱いを受けているそれに確信を得ていたペトラは、予想外の返答に困惑していた。

「とにかく、リヴァイ兵長とはなにもないから!」

「ほんとにただ──の片思いなの?」

「...そうだってば」

"──の片思い"、確かにその通りだ。
今の──の心を抉るのには充分な言葉だった。
自分ばかりリヴァイの事を想って、リヴァイの一つ一つの言葉、仕草に心躍らせられている。

肝心のリヴァイは自分の事をどう思っているのか、このままの関係でいいと思っているのか、考え出したらキリがない。

「そっか、最近すごく仲良くなってたからもしかしたらと思って...早とちりしちゃってごめん」

「大丈夫、!仲良くなったって思われてるだけでうれしいよ、」

そうペトラに笑って見せた──の顔は、言葉とは裏腹に大丈夫といった顔はしていなかった。
悲しそうに笑う──にペトラは、余計な事をしてしまった、と眉を下げた。