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兵長とまともに話さなくなって2日たった。
もちろん業務上言葉を交わすことは何度かあったが、──は今も引きずっており、視線をさ迷わせてしまっていた。

昔は1日何回とは言わないが、ちゃんと話したくて、何かあると兵長へと話しかけにいっていた頃がもはや懐かしい。
どうでもいいことや世間話もあったので、控えた方がいいか考えた事もあったが、兵長は嫌な顔ひとつせずちゃんと話に乗ってくれたのが嬉しかったのだ。

(あの時が1番、楽しかったかも)

そう心に思った──は、静かにベットへと体を沈めた。

「もどりたいなぁ.....」

体の関係なんかじゃなくて、ただ片思いしているだけで良かったのだ。昔に戻りたい。そんな思いが──の頭いっぱいに埋め尽くされた。

「おい、──」

「──!!わ!兵長...びっくりした」

どうやら扉を開けっ放しにしていたようで、急いで上半身を起こせば、いつの間にか部屋にいたリヴァイ兵長とばちりと目が合った。

「最近俺と会うことを意図的に減らしてるだろ。.....そんなに恥ずかしいのか」

「は、恥ずかしいに決まってるじゃないですか...!」

いつもの兵団の服ではなく、ラフなシャツの兵長に思わずどきりと心臓が鳴った。
体を少し強ばらせながら答えれば、リヴァイは何も言わず──へと近づいた。

「へ、兵長...あの」

「...」

「私、戻りたい、です」

「何がだ」

「むかしに。...この前のことは、その...忘れてほしくて」

そう途切れながらも口に出した──にリヴァイは、いつもよりぐっと眉間に皺を寄せた。心做しか目の奥がぎらりと光った気がした──は、思わず視線を落とした。

「...俺がはいそうですか、って言うと思ったか?」

「それは..」

ギシリと軋む音を響かせながら、リヴァイは──のベットへ膝を立てた。目線が合い、研ぎ澄まされたような鋭い光を含んだリヴァイの目に──はごくりと息を飲んだ。

リヴァイは右手でするりと──の頬を撫でたあとに、首の後ろへと手を回しグッと力を込めた。

「──っ、!!」

いきなり唇を奪われた。乱暴なキスで、何度も触れ合い乾いた唇が痛むようだった。唇を吸われ、舌を押し込まれた。──はリヴァイのシャツを思わず掴み、その熱い舌をふくんだ。火傷しそうな熱い舌を、からだ全体で感じ、その熱さは頬へと集まるようだった。

「ん、んう、っ...」

「...は」

ゆっくりと離れていくリヴァイの顔を、とろんとした顔で──は見つめた。

「俺が嫌いになったのか」

そう淡白に呟かれたリヴァイの言葉に、──は目を見開いた。

「そ!んなこと、ないに...決まってるじゃないですか...」

──はリヴァイの体だけではなく、心も欲しかったのだ。
お酒の勢いで手に入れてしまったとしても、それは少し虚しい。なのに、今この状況でリヴァイに求められていることが嬉しいと喜んでしまうこの体が心底嫌だった。

もごもごとしてしまう──にリヴァイは小さく舌打ちした。

「だったらなんで戻りたいなんて言うんだよ」

「それは...」

鋭く光るリヴァイの目に──はただ下を向いた。いつまでたっても続きを言わない──に痺れを切らしたのか、リヴァイはもう一度──の唇に自分の唇を押し付けた。