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散々な1日だった。
二日酔いのせいもあるが、9割昨晩のことのせいだ。その事が頭にこびりついていて、拭っても拭っても取れないのだ。

好きな人と共にしたことに少なからず──は喜んでしまったが、リヴァイの気持ち。昨晩の様子。何一つ分からないので、複雑な思いがもやりと心の中を占める。
どうせ、1晩限りだったのだろう。そう思うと色々な気持ちが入り交じって、じわりと涙が滲みそうだった。


そうベッドの上で頭を悩ませれば、時間というものはすぐに去っていってしまった。明るくなった部屋に眉をひそめ、静かに瞼を開けた。
寝不足から痛む目に、目頭を摘むように押しても大した効果は得られなかった。
だる重い体を引きずるようにして身支度を整えた。


「あ、名前!いいところに!」

「ハンジさん」

廊下を歩いていれば、ハンジが息を切らして──の名前を呼んだ。
どうやら渡して欲しいものがあるらしく、どこにでもあるような茶色の封筒を手渡された。兵長宛だ。
ハンジには当然何も言っていないので、こういったなんでもない頼みが回ってきてしまうのだ。

ハンジから頼まれた、兵長宛の手紙。それに少しだけ力をこめた。昨日の今日で、会いたくない気持ちがむくむくと膨らみ、まるで足枷が付いているかのように重い足を引きずる。

「うわ、──、ひどいクマだよ!?大丈夫?」

「え、ほんとに?そんなやばいかな?」

大きな目の下に、青い色が刻み込まれている──を見て、通りすがったペトラは大きく声を出した。
──の顔を覗き込むペトラに、「全然大丈夫だから」と、安心させるよう微笑んだが、ペトラは心配そうに眉を下げた。

「ほんとに大丈夫?」

「大丈夫大丈夫!夜更かししちゃっただけだよ、」

「...そう?それならいいけど。」

「ね、ねえペトラ、今ちょっと空いてない?」

「まあ、空いてるかな?」と口に出したペトラに、すかさず手に持っていた封筒を渡した。人からの頼みをこうして別の人に頼むのもどうかと思うが、今の自分にはこれしか選択肢がない。ハンジさんごめん、ペトラに任せます、と心の中で謝っておいた。

「兵長にでいいんだよね?てか──自分で行けばいいのに...せっかく兵長と話せる機会なんだから」

「な、な!別にそんな機会いらないから!何言ってんの...もうペトラったら、...」

「.......言っておくけど、──の兵長への想いなんてバレバレだから!」

最近は色々心臓に悪すぎる、ペトラから言われた言葉に何も反応出来ず、ただ硬直した──にペトラはイタズラっこのような笑みをした。

「だって兵長の前だとすぐ照れるし、よく幸せそうな顔するし...たぶんみんな気付いてるんじゃない?というかそれ隠してるつもりだった?」

「...........もうやだ、」

まさかペトラだけではなくみんなも自分の想いを知っていたのか、そう思うととてつもなく恥ずかしくなり、ただ視線を下に落とした。

今思えばみんなでご飯を食べる時なんかは、自分から行動しなくても自然に兵長が隣に来ることも多かった。それは周りの人が遠慮してくれたのだろうか。そして隣になって喜んでいる自分を見てどう思っていたのだろか。

もう消えてしまいたかった。昨晩の失態だけでも大きいのに、更に周りに知られてたなんて、そんなことはいま聞きたくなかった。
ここから逃げ出したくて、グラりと傾きそうな体を動かして、「...とにかく手紙よろしく!」と逃げ去るように叫んだ。