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ベックに揶揄われ顔が火照ったなまえはこのままでは寝付けない、と船を抜け出した。

日中シャンクスと歩いた街は、がやがやと騒がしかったが、既に店はほとんどが閉まり点々と酒場の明かりがついているだけだ。
数時間前の出来事なので、鮮明にシャンクスと歩いたこの街の出来事を思い出す。胸がいっぱいいっぱいでまるで夢のように過ぎ去った時間に、なまえは「はあ、」と白いため息をついた。
いつ告白が出来るか、なんならシャンクスの方から愛を伝えて貰う機会が出来ないか、顔の熱を冷ましに来ただけだったが、なまえの頭にはシャンクスとの悩み事で後ろから近づく不穏な影に気付けなかった。

「っっ、、!?!」

突如後ろから抱きつかれる形で布を口元に当てられ、驚きの反射で息を吸い込めば、ツンと鼻を刺激する匂いに慌てて抵抗しようとするが、大柄な男に両手を塞がられ、そのままなまえの記憶は落ちた。





「ん、」

「よォ、目が覚めたか?随分ぐっすり眠ってたな」

瞼からの明るさで目を覚ませば、両手を前で縛られている手首は動かせそうにない。
それを見つめる男は優雅に椅子に座っている。

拉致されるだなんて、女といえど海賊になったからには治安が悪いのも覚悟の上だったが、まさか後ろから近付いてきている敵に気付かなくなるほどの昨夜の浮かれっぷりになまえは頭をかかえたくなった。

「‥なにが目的なの?」

「さすが赤髪海賊団の女はこんな状況も慣れっこか?」

は、と鼻で笑い椅子から腰を上げ、その男はゆっくりとなまえの近くへと足を進める。
そんな男を、目的を探るようになまえはジッと見つめた。

「おれは赤髪に借りがあるんだ。昨日会いに行く予定だったが一緒にいたお前を利用しようと思ってな」

「‥なるほど、」

「随分大事にしている女のようだしな、」と男はなまえを見定めるかのようにジロリと体を見渡した。
ねっとりとした嫌な視線にグッと眉を顰め、抵抗するかのようになまえは男を睨んだ。

一つだけ喜ばしいのは、屈強な男ではなく明らかにシャンクスやみんなより弱そうな男だということ。なまえはあまり怖がらず、むしろベックに"この島は嫌な輩が多いから気をつけろ"と言われたのにこの有様だ。
絶対に船に戻ったらお説教タイムだ、と船に戻った後のことを悶々と考えていた。

そんな飄々としたなまえの態度を気に入らないのか、男は自分と視線が交わるように、グッとなまえの顎を持ち上げた。

「安心しろよお前は殺さない。最初はそのつもりだったが、赤髪の女なら俺も味見しておきたい。そっちの方がアイツも堪えるだろ」

ペロリと舌を舐め上げる男に、ゾワゾワと鳥肌が立つのが分かった。
シャンクス程ではないが、わりと整っている顔の男だが、好きな人がいるのに知らない男に抱かれるなんて最悪でしかない。
なまえはどう逃げるか、どうやってこの腕のロープを解くか、必死に頭を働かせた。







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