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「真っ赤な唇だな、」と呟きながら近づく、その男のカサカサとしていそうな唇を見れば、なまえは必死に結ばれている腕を前に出し抵抗した。
だが腕が自由に使えないその僅かな抵抗はもはや意味がない。その男の大きな手で結ばれている両手をグッと掴まれればあっという間に腕は動かなくなる。結局男という体格差にはなにも言えない。顔も動けないように顎を掴まれ上を向かされる。

見たくもないその男の至近距離の顔に反射的にギュッと目を閉じ、最後の抵抗として唇に力を入れて固く閉じた。

ちゅ、と触れ合った唇同士だが、気にせず唇の力を集中させた。
すると男の唇が離れたかと思えば、なまえの白い首元へ吸い付き、赤い痕をつけた。

「いった、」

「赤いのが目立つなアンタの肌」

「っ、!やだ!」

そのままするりと洋服の中に入ってくる手に、なまえはその男に恐怖を抱き始めた。ベックが昨夜手を入れてきた時とはまるで違う。このままこんな場所でやられるだなんて、となまえはじわりと瞳を潤しはじめた。

最悪だ、と心の中で昨夜の自分を恨んだ矢先にドンッッ!と鈍い音がする方へ目を向ければ、分厚い扉は2つに切られ、床に落ちている。

逆光で誰が来たか定かではないが、シルエットは心の中で助けを求めていた愛しい人のそれで、なまえは安心からか肩の力が抜けた。


「おい、誰の何に手を出したか分かっているんだろうな」

「シャンクス‥、、?」

ビリビリと肌が震えるほどの覇気を出しているシャンクスは久しぶりに見る。
普段へらへらと笑っている様子からは想像もつかないその怒り具合に、不謹慎だが自分のためにそこまで怒ってくれているのかとなまえは喜びすら感じた。
まるで刃のように鋭く射抜くシャンクスの睨みに、男は少しだけ冷や汗をかいた。

「おいおい。これからお楽しみだっつうのに邪魔するのは野暮ってモンだろ?」

「それは無理な願いだな」

そう言って切りかかっていくその男をシャンクスは赤子の手を捻るように、簡単に制圧していく。
怒りを露わにし、未だにピリピリとシャンクスの覇気を感じる。
普段同じ海賊船にいる限り、ここまでちゃんとシャンクスの戦いを間近で見る事はなく、なまえはつい見入ってしまう。ああ、戦ってる姿ですらかっこいいと思うなんて重症だ。

シャンクスが負けるだなんて一ミリも思わずに、なまえはただただ安堵の息を吐いた。
あのままシャンクスが来てくれなかったら今頃あの男に犯されているところだった。考えるだけでもゾワリと毛が逆立つ。


涙なんてとっくにとうに止まっていて、なまえはただシャンクスの姿を焼き付けるかのようにジッと見つめていた。







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