07
「……」

沈黙の空気がこんなにももどかしいと思うのは初めてだ。
ぱちくりと目を瞬きさせるシャンクスは、まるでなまえからの言葉に驚いているようだ。
勇気を振り絞って伝えた言葉に、どう返答が来るか怖くて、思わずごきゅりと喉を鳴らした。

「そりゃあ良いことを聞いたな」

フッ、と鼻で笑うシャンクスは先程とは打って変わって、嬉しそうに目を細めた。

「‥信じてくれてる?」

「ああ、あまり期待せず受け取るよ」

あっけらかんと答えるシャンクスは、嬉しがったもののまるで信じてくれている気配はなかった。

「なにそれ!」

こんなにもぐいぐいと押しているのに、シャンクスはなまえの言葉をしっかりと受け止めてくれる事はない。

昼間言われた男慣れしているというベックの言葉をぼんやりと思い出し、きちんと伝わるようにシャンクスをじっと見つめ言葉を繰り返した。

「ほんとにほんとにシャンクスが1番かっこよくて緊張するよ」

「‥お前なあ、そうやって男をたぶらかすんじゃない」

「シャンクスにしか言ってないもん!」

どうしてシャンクスは私の気持ちが分かってくれないのか、何度も考えたがまるで思いつかない。

まるで私の好きな人がシャンクスではなく他にいるような、そう思っている感じがする。
そんな焦ったい気持ちになまえの心はもやもやと霧がかかる。


「残酷な女だなあ、なまえ」

そういって頬をするりと優しく触るシャンクスに、思わずくすぐったさから「ん、」と声が漏れる。

先程よりほんとに少しだけ近付いた、シャンクスとの顔の距離になまえは緊張から唾を飲む。
もっともっと、シャンクスに触ってほしい。


なまえはシャンクスへと声を掛けようとするが、シャンクスの眉尻を下げた、切なそうな、だけど嬉しそうな表情に口を噤む。

「なまえ。最後に聞いておくが、昼間ベックと次の島の話をしていたのに本当に出掛けるのは俺でいいのか?」

「そうだよ!シャンクスにご飯奢ってもらわないと」

真剣に質問してくるシャンクスだが、あまりにもその質問は意味がない。

「ははっ、そうか。イイお店探さねェとな」

まさかドタキャンするわけもなく、あんなにシャンクスとの島デートの約束をこじつけたかったのに。たとえどんなにボロく美味しくないお店だとしても、シャンクスと一緒であればどんなお店でも満足できる自信すらある。

「なあ、この間ベックと買い物して買ってきた洋服あるだろ?あれ着てきてくれないか」

「え、あのニットのやつだよね。でもあれまだ試着も出来てないから似合うか分かんなくて、」  

一つ前の上陸した島で買ってもらった白いニットは、汚しそうでまだ着れていなかった。
タンスに大事にしまっている洋服を思い出すも、着たことがない洋服をシャンクスとのデートに当てるのは少しだけ怖い。

「なまえならなんでも似合うさ、俺が1番に見たい。だめか?」

まるで四皇らしからぬ子犬のような可愛いお願いに、なまえは抱き着いてしまいたい欲求を必死に堪え、「わかった!」と頷いた。







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