なまえがハッと瞳を開けば、そこはツンとした薬品の匂いと真っ白な病室で、そよそよと穏やかな風がカーテンを揺らしている。
「・・・・夢?」
先程まで酒場で働きいつも通り仕事をしていたのだが、棚から落ちてきたなにか硬い物にガツンと頭に当たった所まで覚えてる。
長い長い夢から覚めたような気分だった。
だが生々しい血の匂いや、リヴァイを抱きしめた感触、今でも鮮明に思い出せる。
「なまえ!起きたの?!」
ガラリと扉を入ってきたのはひどく懐かしく感じる友達で、どうやら“今朝”階段から滑り落ちて救急車に運ばれたらしい。
「え、今日、の話?」
「そうだよ、もう階段気を付けてって言ったそばから落ちて・・ばかなまえ!無事で良かった」
ああ、せっかくのリアルな夢ならもっともっとリヴァイと一緒に居たかった。もう少し好きなようにリヴァイを抱きしめておけばよかったと後悔した。
*
あれから流れるようにあっという間に時が経った。
なまえは既に社会人になり、あの時の衝撃体験は今でもふと思い出していたが、今回初めて溢れるような気持ちを友達へぽつりと漏らした。
「ていう事があったんだよね、あの時」
「それはそれは・・私が焦ってる間、幸せそうに眠れてたようでよかったよ」
「幸せすぎて、もう一回でいいからまたあのリアルすぎる夢みたいな〜」
「だからか、あの時らへんだったよね?リヴァイ兵長のこと謎にリヴァイくんって呼び始めたし・・・めちゃくちゃ推してたよね」
「そりゃあもう給料は全てリヴァイくんに捧げる気持ちで」
もう一度あの幸せな体験をしたいなあ、なんてあれから何度も何度も祈っていたことだけど決してリヴァイに会えることはなかった。
いつも通り会社の愚痴と、周りの友達の話、話し疲れた所で外も真っ暗なことに気付き、名残惜しみながらも解散した。
こういう話を気持ち悪いと否定せずに笑って聞いてくれる友達に感謝だなあとぽかぽかとした気持ちで帰り道を歩く。
まん丸で明るく照らしているお月様にふと足を止め、ぼんやりと見つめた。
毎日やりたくもない仕事の日々を全て投げ出し、リヴァイに会いたい。
その直後、キィィイッッと大きな車のブレーキ音になまえは目を見開き、体を硬直させた。
そしてなまえが最後に見たのは黒い車がこちらに向かってきている様子だった。