03
「おい」
その低く威圧感のある声に、エレンとなまえはびくりと肩を震わせた。
「っ・・兵長!驚かせないでくださいよ」
「おつかれさまです・・へいちょう」
まさか聞かれてた?となまえは居心地悪そうに視線を下に逸らした。
いくら兵長のためにという理由が本当はあったとしても、他の男の人と遊んでいるなんて話、死んでも聞かれたくない。緊張から冷や汗をかいてしまいそうだった。
「エレン。お前は明日クソ早い時間に起きるんだろうが、今すぐ部屋に行って寝ろ」
「え」
「お前の飲むはずだったお茶は俺が飲んでおく」
なまえが用意していた2人分のお茶をリヴァイはちらりと見た後、エレンに命令のような強い語尾で伝えた。
「わ・・かりました。俺は寝ます、では兵長お先に失礼します」
「ああ」
「うそ、エレン」
そそくさと去っていったエレンに、なまえは絶望すら感じていた。
少し前だったら喜んで受け入れていた2人きりだが、今はなぜだか無性に気まずい。
「面白そうな話してたな」
「!」
「エレンとしていた話の続きをしようじゃねえか。座れ、なまえ」
まるで、訓練中のリヴァイのように冷たいその視線にぞくりと鳥肌がたった気がする。
最悪だ。1番知られたくない人に聞かれてしまった。
おそるおそる淹れたてのティーカップをリヴァイの前にことりと置き、前の席へと腰掛けた。
「悪いが俺は耳が遠いらしい。1番初めから詳しく話してくれるか」
「いや、はは・・・・明日の、・・エレンの実験はなにするんだろうな、とか」
「ふざけてんのか」
「ごめんなさい」
リヴァイのただならぬ圧になまえは「ええと、」とどのように会話をそらせるかどうか必死に頭を回した。
「・・・・」
「・・・・」
「お前が好きな男をコロコロ変えるアバズレ女だとは知らなかったな」
「あば、ずれなんかじゃないです」
「じゃあなんだ、今まではお前の脳みそのように小せえ気持ちだったって事か?」
「・・・・」
そんなわけない。周りが見えなくなるくらい大好きで堪らなくて、みんながいる場でも手を握ったのに。
他の男の人と付き合った理由も、全部リヴァイのためだというのに。
手を繋いでも何も感じてなさそうだったリヴァイが、何故今怒っているのか見当もつかない。
なんで怒られてるの、あなたに彼氏ができたと知られてほしくなかった、期待させるようなことは軽々しくしないでほしい。
「ちいさいわけ、ないじゃないですかっ!ずっと大好きだったのにっ・・」
ぐちゃぐちゃと沢山の黒い感情で、涙がぽろぽろと溢れていった。