05

なまえが頭を打って意識がないらしい。


どうやら立体起動の訓練中に、他の仲間と衝突して転落しその際に頭を強く打ったのだろう。
普段のなまえからするとありえないミスだが、昨日の喧嘩で寝不足が原因である。

「リヴァイ兵長!!」

「チッうるせえな。ノックくらいしろ、エレン」

騒々しくバンッ!と扉を開けて部屋に入って来たエレンは走って来たらしく、息を切らせながら肩を上下に揺らしていた。

「す、すみません・・ッ、でも兵長、なまえが・・記憶が無くなっているみたいで」

「は?」と緩かに目を見開き、書類を見ていた視線が、エレンへと移った。

「いえ全く無いわけでは無いんですけど、なんていうか・・ここ数ヶ月分が無くなっちまったみたいで・・」

悲しそうに顔を歪めるエレンは、とても嘘をついている様子ではなかった。
早く行ってあげて下さい、とエレンの頼みもありリヴァイは仕事を投げ出して医務室へと足を進めた。



するとなまえのいる病室から、男が出て来くるのがリヴァイの目に入った。

「!」

その男の兵団服には自由の翼ではなくユニコーンが描かれ、憲兵団の制服だろう。

そういやエレンがなまえと憲兵団の男が付き合ったと言ってたなと、頭の片隅で思い出し舌打ちを落とした。

「おい、・・大丈夫なのか」

「あ、!リヴァイ兵長!へへ、来てくれたんですか?」

と無邪気に笑うなまえは、痛々しく包帯が頭と腕へぐるぐると巻かれていた。
だがその明るい様子はあまりにも不自然だった。昨晩はじめて喧嘩をし、大嫌いとまで言われたなまえがここまでリヴァイに対し穏やかな表情を向けるとは思ってもいなかった。
やはり記憶が抜けているというのは本当の事なのだろう。

「・・」

「ごめんなさい、覚えてないんですけど・・。ミカサ達が言うには昨日すごい悩み事してたみたいで、それでドジっちゃったみたいです」

「・・・・本当に覚えてないのか?」

「はい。でも直前で兵長と話してたってエレンから聞いて。なんの話でしたか?・・・・いや、怖くて聞きたくない気もしますが、」

「別に覚えてねえならそのままでいい」

「え!気になりますよ!そのせいでいま記憶とんじゃってるみたいだし・・」

寂しそうに視線を落とすなまえには可哀想な気持ちもあるが、傷付く言葉を伝え喧嘩をしたなんて言いたくはない。
そう口篭ったリヴァイは、どうせいつか記憶も戻るだろうと「大した事は話してねぇ」と言い切った。

そんなリヴァイになまえは少し不服そうだったが、本人も自分が悩んでいたものを聞くのが怖いのか、深入りしてこなかった。

「おい、ついさっき部屋から出て来た野郎はだれだ」

どうせ付き合っている男だろうが、どうしてもなまえから聞きたかった。
ずっと聞きたかった質問をリヴァイが射抜くような視線でなまえを見つめながら伝えた。

するとなまえは困ったように眉を下げた。

「それがよく分からなくて。聞く限り私と・・・・、その、仲が、良かったといいますか・・。最近よく会っていたようなんですが全く記憶になくて」

「・・・・・・そうか」








|top|