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「で、なんで名前さんがここにいるん?」
案の定、ハルはどう考えても異質な私の存在にツッコミを入れる。エイムくんもぽっぽもあからさまに目を逸らすから、余計にハルは眉を寄せた。
私の家の次に来たのは予定通りハル、渋谷ハルの家だった。私も何度か用事があって訪れたことがあるため、新鮮さに欠けるがいい家だ。エイムくんとぽっぽはハルとプレゼント交換をして、撮影を一旦区切る。ハルは空気が読めるから、エイムくんとぽっぽが私をいないように扱えば、彼もそのように扱ってくれた。が、それに対しての疑問がなくなるわけではなく、撮影が終わった瞬間に痛いところを突いてくる。何事もなくそっとしてくれたらいいのに。
彼のまっすぐで、嘘は許さないような視線に思わずため息がこぼれる。これは言わなきゃ帰してくれそうにない。
「はぁ!?不審者!?」
「声でっかい!」
私から一連の事情を聞いたハルは、想像よりも派手な反応を見せてくれる。エイムくんとぽっぽも気まずそうにしているし、この話はあまりしたくなかったのだけれど。あと、絶対“あの話”に繋げられるし……。
「別に何かされたわけじゃないし……」
「何かって、いやいや、それ絶対にストーカーだし、家にいたって……何かされまくりだろ」
「そうかな……」
口ではそんなことを言いながらも、しっかりと恐怖を感じていたなんて悟られないように気丈に応える。それすらも見抜くように彼はため息を吐いて続けた。
「とりあえず事務所には言った?おじじには?」
「い、ってない」
「はぁ!?まずはおじじに相談しとけ。こういうのは事務所が対処するもんだろ」
「だって……」
そんなのは当然だ。トラブルは所属事務所に報告するのは知っている。でも私があまりそれをしたくなかったのは、ハルとおじじにあることを提案されていたからだ。
「だって、おじじに言ったら強引にでも決められるし……」
「いやいやこんなことがあったなら当然やろ。転居手続きするぞ」
「やだ……」
ここにいる誰よりも年上だというのに駄々をこねる園児のように俯いてそっぽを向く。目の前のハルは「あのなぁ」と今にも正論を並べ立てそうだ。後ろに控えるぼぶきなは「なんの話?」「あれかなぁ」なんてぶつぶつやりとりをしている。丸聞こえですよ。
「本当は女性を入れたらトラブルが怖いから入れないって話だったでしょ!?」
「名前さんは入れないとトラブル起こすでしょーが!」
「今度はもっとセキュリティしっかりとしたとこに住むし!!」
「お前はそれだけでどうにかなると思ってんの!?不審者なめすぎだろ!」
以前からハルやおじじから提案されていたのは、年始に施行が終了し、正式に稼働する通称「ゲーミングハウス」への転居についてだった。
ゲーミングハウスはその名の通りゲーマーのためのマンションで、ハルとおじじが合同で施行したらしい。既に数多くの人々が転居を決めており、地方に住む方々もこれを機に上京すると聞いた。彼らの周囲のゲーマーといえば、ほとんどがCRかKNRに所属しており男性であることから、女性の入居はトラブル防止のために行わないと言われていたのに、なぜか私は「元の家のセキュリティがガバガバだから」という理由で転居を勧められていた。確かに魅力的な申し出ではあったけれど、ただでさえ唯一の女性という肩書きでアンチも多いのに、共同生活なんてしたら殺害予告とかが普通に送られてきそうだ。
「絶対にやだ!!CR加入時にもめちゃくちゃ炎上したのに!!!」
「でも結局実力で黙らせたじゃん」
「いやでも今回は絶対にやばい!!」
「転居したことを黙ってればいいんじゃないの。知らんけど」
「また適当言って……!!」
この世界には回線や音質で引っ越したことを見抜く激ヤバリスナーがいるらしいことも知っている。私なんてバイト先も家も特定されて家の中にまで入られたんだから、すぐに見抜かれてしまいそうだ。関西特有の適当なことを言うハルに食い下がっていると、背後から「え!」っとエイムくんの嬉しそうな声が聞こえて嫌な予感がする。
「名前さんゲーミングハウス来るんですか?」
振り向けば私たちの話を聞いていたのだろうぼぶきながキラキラな目で(特にエイムくん)私を見つめてくる。ピュア故のまっすぐで邪気のない瞳に思わず二、三歩後ずさる。その目で……見ないでほしい。
「じゃあじゃあ、名前さんと一緒にショッピングとか行けるってこと?」
「いや、エイムくん、あのね」
「え、いいじゃん。俺も名前さんともっと遊びたい」
「ぽっぽ…??」
二人が私と一緒に住んだらやりたいことを次々に列挙していく。そんなに夢を語るかのように話されても困る。だって私はこの申し出を断るつもりで……。
「えー、そしたら名前さんまた変なのに襲われないし、めっちゃ安全じゃん」
「ね!俺名前さんの手料理食べたいなぁ」
「ぽっぽ?エイムくん?」
「ほら、かわいい弟たちが甘えてるみたいやけど?」
楽しそうな二人を止めることもできずにいると、まるでトドメのように背後からハルの声が聞こえてくる。
卑怯だ……。