再会の約束

拝啓、若くん。

春の風が心地よい季節となりました。若くんはいかがお過ごしでしょうか?

私は先日お伝えした通り、幾度目かの転勤を前に慌ただしい日々を過ごしております。多分、他の人よりは慣れているとは思いますが、やはり数年住んだ街を離れるというのは何度経験しても物悲しいものです。

今度は神奈川にいくようです。私立の高校の入学も決まり、またゼロからのスタートですが、若くんと物理的距離が近くなることをとても嬉しく思います。
会える距離ですから、この文通を続けるのも少し変な感じがしますが、もう少し続けるのも悪くないと私は思います。若くんはどう思いますか?今度のお手紙でお返事をください。

生まれた街ではないけれど、大阪での思い出もたくさんできました。お手紙では伝えられないことも色々あるので、直接会ってお話ししたいです。3月26日には神奈川に転居しますので、それ以降で空いている日がありましたら教えてください。久しぶりに若くんに会いたいです。部活などでお忙しいとは思いますが、こちらもお返事をいただけると嬉しいです。

季節の変わり目で体調を崩しやすくなると思いますが、健康に気をつけて部活頑張ってください。今はまだ遠い地ですが、応援しております。


敬具




綺麗な文字で書かれたその手紙を何度も何度も読む。何度も読んで、目を閉じても思い出せるように。手元になくても暗唱できるように。それほど彼女からの手紙は俺にとっては特別なものなのだ。

それに……。

「神奈川……」

その凹凸を指でなぞる。ああ、間違いない。“神奈川”と、そう書いてある。
胸の奥がぎゅっと、苦しいようなくすぐったいような不思議な気持ちになった。

会えるんだ。
やっと。
ああ、どれほど待ち焦がれただろう。

はじめは沖縄。
それから大阪。
そして…神奈川。
手の届く距離だ。足の届く距離だ。
もうすぐ会える。それこそもう、何年ぶりだろうか。

「日吉ー!」

遠くから向日さんが俺を呼ぶ声が聞こえた。俺はそれに返事をしてから便箋を封筒に戻し、ラケットバッグの外ポケットにしまった。そして代わりにベンチに立てかけていたラケットを手にしてコートに向かう。

気持ちが逸る。これじゃあダメだとわかっているのだが、どうしても。今日は、今日くらいは許されるだろう。


いつまでも色褪せぬ手紙の君。
いつまでも変わらない初恋の君。

「やっと」


会える。