バレンタイン企画荒北




「お前さ、お菓子とか作れんの?」
「はい?」

 朝のホームルーム前、自分の席に座りお菓子作りのレシピ本を開くみょうじに、荒北はさも訝しげな顔に半ば小馬鹿にしたような声色で訪ねた。
もちろん彼女は彼が言わんとしていることを感じとり、ゆっくりと不機嫌そうな返事ともに顔を上げる。
そして、目の前の席に逆向きに座り覗き込んできた荒北の顔をみて、声だけでなく彼女の顔までも不機嫌そうに歪んだ。
要は、彼が言いたいのは「作れもしないのにそんなもん見てんじゃねェヨ。」ということだろう。

確かに、彼女はお菓子作りというものが大の苦手だった。
調理実習で作ったクッキーは言われた通りに作ったはずなのに、オーブンの中で弾け飛び見るも無残な姿になったし、焼くものがダメなのだと思いマシュマロを作ってみた時には生臭いマシュマロが出来上がり食べられたものではなかった。
一般的な家庭料理と言われるようなものは難なく作れるのだが、お菓子作りとなると彼女は科学者と化した。
前世にパティシエに恨まれるようなことでもしたのではないかと、占いなどをあまり信じない彼女もそう思わざるを得ないほどなのだから、相当なものだった。
そもそも彼女自身、お菓子などといった甘いものが好きではないため、普段からお菓子を作るという習慣もなければ、美味しいお菓子という定義すらわからない状態だ。
好きこそ物の上手なれというが、好きでもないので手の打ちようがない。

しかし、もうすぐバレンタインという女子高校生にとって口にするだけでも心躍るイベントが待ち構えている。
朝でも、昼休みでも、放課後でも、ここ最近のはずさない会話と言ったらバレンタインの話題だ。
朝から晩まで友人のバレンタインの相談に乗っていれば、渡す相手もいなければ、作る予定もない彼女でもバレンタインというイベントに浮き足立ちたくもなる。
少し気になったから、可愛らしい表紙のレシピ本を友達から借りて読んでいただけなのに、デリカシーの欠片もない首から下だけがやけにイケメンな男に、不快極まりない言葉をぶつけられ彼女の浮き足立った足もしっかり地面を踏みしめた。

「作れなかったら見ちゃいけないわけ?」

背もたれに両腕をのせ、その上に顔を乗せながらニヤニヤ笑う荒北にじっとりとした視線をおくる。
元より、レシピというのは自分の裁量では作れない人のために用意されているものだ。
そんなこと言われる筋合いないと、機嫌の悪さを隠そうともせず彼女は口をへの字に曲げた。

「そうはいってないでショォ。…ただ、」
「ただ?」
「もらった人が可哀想だなって。」

一瞬彼の言葉が理解できずぽかんと口を開けたまま彼女は、ぼんやりと彼の顔を眺める。
徐々に自分が言われたことを理解し始めた彼女は、目の前の顔に手もとにあるボールペンを突き立てないようにするのに精一杯で何も言葉が出てこず、パクパクと口だけを動かした。

「魚みてェ。」
「はぁ!?なに!?信じられない…!わざわざそんなこと言いに来たの!?」
「だからさぁ。」
「え!なに!?もっと何かあるの、言ってみなさいよ!!」

彼女は左手にボールペンを握り締めた。
いつでも脳天に突き刺せる。

「…俺が」
「荒北が!?」
「…俺が食ってやるよ。」

先ほどの小馬鹿にしたようなニヤニヤした表情は消え、彼は気まずそうに視線を泳がした。
手がこのまま固まってしまうのではないかと、ボールペンを固く握りしめていた準備万端の左手が行き場を失う。

「…え?…はぁ?」
「だぁから!俺がお前の作ったチョコレート食ってやるよ!!」
「え!?はぁ!?そもそもチョコレート作るとか言ってないし!!てゆーかなにその下手なツンデレ!!」
「ハァ!?作らねーの!?じゃぁなんで、そんな本…てかツンデレじゃねーし!!!」
「これは気になったから、友達に借りて見てただけで!!」
「紛らわしいことしてんじゃねーヨ!!誰かに作るんかと思って、あせ…」
「焦ったの?」
「焦ってねーヨ!バァカ!自惚れんな!!」
「じゃぁ荒北にチョコ作る理由なんてないね!!!」
「ハァ!?作れヨ!!」
「なんで!!」
「お前からのチョコが欲しいって言ってんだろ!!!」
「え、ちょ、急にそんな…。」
「急に照れんなよ!!……っうーわ最悪だヨ。」

そこで二人はクラス中の視線を集めていることにやっと気がついた。













是が非でも君からのチョコレートが欲しい
クラスメイトの前で公然告白?ハッ!余裕!



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