バレンタイン企画鳴子




 次の授業の準備をしながら、鳴子は前の席に座るみょうじのロクでもない話を心底つまらないという顔で聞いていた。
国語の教科書を読むわけでもなく、開いては閉じページをめくっては何を言わんとしているかわからない短い詩に目を通してみたりもしていた。
傍から見れば後ろを振り返っている彼女が一方的に話しかけていることが丸分かりだったが、当の本人は彼の退屈そうな様子を知ってか知らずか、しゃべり続けている。
しかし彼が彼女のことを嫌っており、疎ましく思っているということでは決してない。
むしろその反対であったから、いかにもバレンタインというような風体をした、可愛らしいレシピ本を開きながら自分ではない誰かの話をしているのを見るのが嫌だったのだ。

しかもその誰かというのが、よりによって、「顔性格自転車全てにおいて自分の方が上回っているのに偉そうな態度で人を見下してくるいつも飄々とした態度の気取り屋でクールぶってていけ好かないさらに言えばお笑いのセンスだってまるでないちっとも面白みのない地味でスカしたあの」今泉なのだから、彼の機嫌が良いはずがなかった。

彼だって以前から今泉の女子人気の高さは知っていたし、あれだけ言っておいて認めたくはないがモテる理由だってわかっていた。
それに対して今までは少し羨ましいと思ったことはあるにせよ、憎悪に似たような忌々しい感情までは持ち合わせていなかった。
しかし、今回は話が別である。
目の前の仕草が一々可愛らしい彼女が、可愛らしく今泉の話をしているのだ。
今泉を憎らしく思うなという方が無理な相談だ。

「鳴子くん?聞いてる?」
「はっ、え、ハハハ聞いてへんかった!」
「えー?」
「いやー今日の朝練ごっつきつかってん。半分寝とったわ!」

 彼女の話に出てくる今泉に腹が立って仕方が無く話を聞いている場合ではなかったなんて、言えない彼は大げさなリアクションを取りながら下手な嘘でごまかした。
彼女もそんな彼の様子がおかしいところを感じ取ったのか、下手な嘘の向こう側でも見るかのように首をかしげたが、豪快に笑う彼をみて苦笑しながら詮索するのはやめた。

「で、今泉君って何が好きだと思う?」
「知らん。」
「同じ部活じゃん?そーゆー話しないのー?」
「せんわ。」
「そっかー。」

 今泉の話になった途端、急に口数も減り表情もころっと不機嫌モードに戻ってしまった彼に、今日は起伏が激しいななんて的はずれな感想を抱きながら彼女はレシピ本と口を閉じた。
かばんにレシピ本をしまう彼女は彼の気持ちには酷く鈍感らしかった。
彼の感情のリモコンを彼女が握って操作しているなんてこと、すぐにわかりそうなものなのに、彼女はリモコンを手に持っていることすら気づいていないようだ。
どうしようかな、なんて不機嫌の種に未だに水を注ぎながら次の授業の準備をする彼女の背中をぼんやりと見やる。
恋心を抱いている彼女が他の男、しかも自分のライバルを好きだという状況に感傷的になるのは簡単だったし、不機嫌を貫き通すことだってできた。
しかし、そんなじめじめした気分は好きではないし、彼の信条にも反している。
当たって砕けろ?そんな馬鹿な話があるか。
当たったって砕けないのが鳴子章吉だった。

「なぁ、みょうじちゃん。」
「ん?」
「スカシなんてやめた方がええで。」



振り返りきょとんとする彼女に鳴子は精一杯強がって笑ってみせた。

















ワイは君の作ったもんなら全部大好物やから!!
何が好きかなんて頭ひねらんでもええやろ?



- 6 -


*前次#



★ YELL ★

ALICE+