見た目詐欺

「…よし、いってきます」

まだ住み慣れない一人暮らしのワンルームに向かって言い放ち、鍵の締め忘れに注意して歩き出す。
ノリの効いた制服が身体に馴染まずそわそわする。

今日から私は高校生になる。
国立雄英高校ヒーロー科、ヒーローを目指すものなら誰もが憧れるそこで。




▽▽


(すごい…)

呆れる程大きな校舎に当たり前の感想しか出てこない。惚けてしまったがハッとして足を動かす。いけない、こんなに広いのにこんな所で突っ立っていられない。慌ててクラスを確認し新入生の間をぬいて教室へ向かう。

これまた大きな教室の扉に驚きつつ恐る恐る足を踏み入れる。
教室には既に殆どの生徒がおり、ガヤガヤとお喋りしたり着席したりしている。内心出遅れたと思いつつも座席表を確認し自席へ向かう。

目つきの悪い男子がなにやら大きな声で罵声をあげているのを横目にそそくさと歩く。
緊張の為目線は下へ向き誰とも目は合わなかった。
席は窓際の一番後ろ人数のせいか一人だけ飛び出していた。こんな場所でこんな調子では友達なんて出来るだろうか…不安になりながら机に着いて溜息を零した。
不意に教室から喧騒が和らぎ低い声が聞こえた。どうやら担任の先生らしい。大凡普通の教師像からかけ離れた様相に驚くが、ここは雄英だ。つまり担任はプロヒーローという事だろう。何となく背筋が伸びた。





入学式なんてなかった。
いきなり個性把握テストなるものが行われるなんて聞いてない…。
先生から手渡されたほんのり温かい体操服を持ち更衣室へ行かなければいかない。
女子どころかまだ誰とも口を聞いていない私の顔はたぶん強張っていると思う。
どうしよう…と、とりあえずゆっくり人波に流れるようにいこうとすると横から声がかけられた。

「ねえ、なんか顔色悪いけど大丈夫?」

黒髪が綺麗に切り揃えられた私より少し背の低い女子が心配気に言った。

「あっ、ううん。ちょっと緊張しただけで…大丈夫」

精一杯の微笑みを向けたつもりだが上手く出来ただろうか。不安になりつつも目を向けるとつり目気味の瞳を少し大きくしてこっちを見ていた。

「?…あの私、与田千可子って言うんだけど…」
「ああ、ごめん。ウチ耳郎響香、よろしく」

私の高校生初めての自己紹介が終わるとそのまま更衣室へ向かう為に廊下へでつつ二人で話しつつ他の子ともちらほら喋れた。
響香ちゃんはサバサバしていてとても話しやすかった。



その後、色々あったがなんとか無事…とはいえないがにテストは終わった。怪我をした緑谷君とやらは大丈夫だろうか。

除籍という無慈悲な宣告を恐れて精一杯頑張ったのだが、結局それは合理的虚偽というさらに無慈悲なものだった。
自分でも嫌になるが真面目な性分の私はこのテストと個性の相性が良かった為上位に食い込めたのだが…


「…てか与田ってパワー系だったんだ」
「びっくりしたよー!見た目からじゃ全然想像つかない!」
「あ、へへへ、よく言われる…」

更衣室では先程の私のテストの様子が話題に上がった。耳にタコができるほど言われた言葉に苦笑いしかでない。
私の個性はエネルギー操作というもので、色々出来る事も多いものなのだが、完全にパワーファイター感が否めない。対して私自身は身長は女子にしては高い方だが筋肉モリモリな訳でもなく一応付いている筋肉の上にはしっかり脂肪が乗ってしまい見た目は全く硬そうではなく顔も図書館にいそうと言われるタイプだ。
そんな奴が握力測定でゴリゴリの男子と同じくらいの記録を出せばこの反応もうなづけるだろう。

「まじでギャップ盛りすぎで逆にウケる」
「えっありがとう…?」

響香ちゃんからの言葉に咄嗟に礼をいうとソフトボール投げで無限を出した子に吹き出された。笑いながら謝られ自己紹介された。
お茶子ちゃんは、あかん、私ツボや〜と楽しそうで私もつられて笑ってしまった。
少ない女子と仲良くなりたいと思っていたが幸先が良くてさらに笑みがこぼれた。