まだ食べれる


私の地元は田舎だ。
ただ、日本人の心象風景のような田園が広がる穏やかな田舎を想像されるとそれは違うと言える。
駅もバスも通っているし、本数も少ないが1日2本とかではない。ファミレスだってコンビニだってあるが、気軽に行ける距離にはない。完全車社会であり、買い物に行こうとすればそれなりの労力が必要になってくる。
都会の人が憧れる田舎暮らしとは違う、自然はあるがそれだけで排気ガスもそこそこある。

そんな微妙な田舎から出てきて一人暮らしを始めた私だが、内心感動したのが私の暮らす一応オートロックのマンションと言えるか怪しい家から歩いてすぐにコンビニがあるのだ。

歩いて3分でコンビニ…
思わず感動して登校途中に寄ってパックのジュースとカロリーの高そうなパンとキャラメルを買った。
無駄遣い…いや、これは必要経費、と頭を振りながらコンビニをでて歩く。

学校からほど近く、途中の駅を過ぎれば雄英生がちらほら通り過ぎる。
さっそくさっき買ったキャラメルを食べようと包装を解こうとしたら声を掛けられた。

「む、君は!」

なかなか大きな声で話しかけられたのでちょっとビクついた。そこにはしっかりとした身体つきのメガネの男子。

「おはよう!君はA組だっただろ。俺は飯田天哉だ。よろしく!」
「お、おはよう私は与田千可子。よろしくね。」

キビキビと動く手を気にしながら返事をし、そのままなんとなく並んで登校した。
飯田君は見るからに真面目な人だと思ったがなかなか面白い。真面目すぎるというか…そういえばこの人初日にヤンキーぽい爆発の人と言い合いしてたな。


食べようとしたキャラメルは歩きながら食べることを見咎められそうで食べるのはやめておいた。ちなみにコンビニの袋を見た飯田君に昼ご飯かい?と聞かれ咄嗟に朝ごはん用、と言ってしまった。
がっつり朝ご飯食べたんだけど、ごめん、乙女心が……



昨日の反省から少し早く登校したお蔭か、教室にいる生徒は昨日よりも少なかった。

「与田さん、おはようございます」
「おはよう、八百万さん」

前の席の八百万さんに挨拶をして席に着く。
カバンを横にかけコンビニ袋は机に乗せると八百万さんが振り向いて話しかけてきた。

「あら、それは朝ご飯ですか?」
「…うん。朝用意できなくて」

なんとなく嘘を通してしまった。少し後ろめたくて目線を落とす。
一人暮らしなの、と言い訳がましく喋りながらパックのジュースを飲む。

「大変ですのね、何か困った事があったら言ってくださいね」
「本当?ありがとう」

八百万さんに後光が見えた気がした。優しさを噛み締めながら菓子パンを食べる。

「あ、そうだ。キャラメル食べれる?あげる」
「あら、…ではいただきますわ」

ありがとうございます、とまた綺麗な微笑みを返されて自分が浄化された気になった。
近くにきた響香ちゃんと透ちゃんにもあげながら菓子パンとジュースのゴミをまとめた。

私の高校生活順調過ぎてどうしようか。




▽▽▽



いよいよきた、ヒーロー基礎学。
私は本日三食目である食堂のカツカレー(大盛り)を食べ終えお腹も万全である。

わくわくして席に着いているとあの、平和の象徴オールマイトが普通に教室に来た。
No.1ヒーローの登場に沸き立つ教室。
かくいう私も心が弾んだ。雄英すごい。
あのオールマイトが目の前に…

ぼうっとしていたら話が進んでいた。いきなり戦闘訓練でコスチュームに着替えてグラウンド・βに集合らしい…不安しかない。


ロッカールームでコスチュームに着替えた。
私はコスチュームの要望は個性を使った戦い方を考えてだしただけでデザイン等はお任せにしていた。もともと自分にデザインセンスがあるとは思えなかったのでプロにお任せしたのだが、これはどうなのだろうか。

個性上、露出は多めにとは言ったがボディスーツの様なピタピタの生地の上下に分かれたコスチュームは上はブラトップのへそ出しに下はパンツより少し長い位の短パン、ソールのしっかりしたショートブーツに手のひらが出たグローブ。ベルトや首元にメカニックな部分があり後はゴーグルが付いていた。

太っているわけではないし、鍛えているからそれなりに引き締まっている筈なのだが胸やお尻など肉付きがいい方なのでなんとなく格好がつかない気がする。こういうのはもっとムキってした人のが似合うだろう。

スースーするお腹を気にしながら横の八百万さんを見ると、なかなか際どいコスチュームで目を剥いた。
八百万さんも個性柄肌は出ていた方がいいらしい。同じだよ、と言い合っているという視線を感じた。

「八百万もやばいけど与田もやばい」

パンクなコスチュームを着た響香ちゃんに真顔で言われてちょっと落ち込んだ。



急ぎましょう!という八百万さんの声でバタバタと集合場所へ向かう。
お茶子ちゃんが恥ずかしがっていたがただただ可愛かったので褒めたら私を見て一瞬冷静な顔をしてから千可子ちゃんのがすごかった!と言われた。

なんだか不安になったのだが、私より手袋とブーツだけの透ちゃんのがすごくないの?
などと思いながらみんなが待つ場所へ着くと男子も様々なコスチュームを身につけなかなか見ごたえがあった。

後ろの方に立つと視線を感じたのでチラリと見回すと背の小さい男子がこっちを見ていた。
こっちを見ているのに全く目が合わない。
なんとなく視線から逃れる様に移動すると近くに立っていた人に当たってしまった。

「ご、ごめん」
「…いや、大丈夫だ」

見上げるほど背が高いこの男子は確か個性把握テストの握力測定で凄かった人だ。
複数ある腕から口がでて喋ったのでちょっと驚いたが体制を整えようとしたら、こちらをチラリと見た後私の後ろを見てまたこちらを確認し、スッと私と場所を入れ替えた。

不思議に思ったが彼の背後から先程の小さい男子の声が聞こえてきた事で視線を遮ってくれたのだとわかった。

「あの、ありがとう」

勘違いかもしれないが控えめに礼を言うとまた複製された口から気にするな、と返事がきた。
見た目はちょっと怖そうだがいい人だと認定された彼は障子くんというらしい。
なんとなく同じパワー系の親近感を抱いた。