夢野先生と娘と昔話

「ぱぱぁ寝れないからなんかお話しして」
「いいですよ。そうですねぇ・・・お姫様のお話は好きですか?」
「お姫様ー?すきっ!してしてぇ!」
「ふふ、じゃあはじめましょうか。・・・昔々 雪深い山奥の村に大きな御屋敷がありました。」

その御屋敷の門は固く閉ざされ、人の出入りは滅多にありません。その村ではその御屋敷に入ってはならないという暗黙の了解がありました。
何故なら、その御屋敷は鬼の血を半分引いた一族の家だったからです。
その御屋敷にはとても愛らしく、心優しいお姫様がいました。お姫様は御屋敷から出れずに毎日毎日御屋敷の中で暮らしていました。
この御屋敷でお姫様ができることは限られています。御屋敷の中の箱庭で花を愛でるか、本を読むかくらいでした。
・・・その日、お姫様は箱庭で椿を一枝折って部屋に飾ろうと箱庭に出ていました。
いつも通りの箱庭ですが、1つだけ違っているところがありました。
箱庭に、人間の男の子がいたのです。その男の子は村の子供だったので、勿論屋敷に入ってはいけないことは知っていました。しかし、屋敷の垣根から飛び出していた見事な紅椿に惹かれて入ってしまったのです。

男の子はお姫様を一目見て恋に落ちました。

男の子はそれからというもの毎日毎日、お姫様の箱庭に通いました。お姫様に屋敷外で起こったことを話したり、彼の唯一の友人のことについて話しました。
男の子の話をお姫様は目を輝かせて聞いてくれました。お姫様の頭から伸びている角も、少し鋭い爪も、犬歯もちっとも気になりませんでした。
5年間、男の子はお姫様の箱庭に通い続け、男の子は青年になりました。
その間、ずっと青年はお姫様が好きでした。

青年は都会に出て行くことが決まったのですが、お姫様への想いを捨てることができず、お姫様と離れたくないと思いました。

青年は都会へ行くことと、募る想いを打ち明けました。
お姫様は自分も同じ気持ちであると伝えました。そして、家を捨て出ると言いました。
2人はその次の日の早朝駆け落ちし、誰にも知られることなく都会へ旅立ちました。

「そしてその数年後お姫様と青年の間にとても可愛らしい女の子が産まれるのですが・・・・おや、寝てしまいましたか。」

すやすやと規則正しい寝息を立て眠る娘の頭を撫でる。妻が言うには3歳くらいになれば帽子で隠さなくても角を隠せるようになるとのことだが。
隣で眠る妻を見るに、どうも寝てる間など気が緩んでるときは出てきてしまうようだし、帽子はずっといりそうだけどね。


『紅椿の牢と半鬼の姫君』/30.12.18

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