01
久々に少し早めに帰れたあの日、もちろん定時退社なんてものはなかったけれど。終電じゃないことに小さな幸せを感じほくほくしながら帰路につくと、尋常じゃない人混みに揉まれる羽目に。そういえば、今日ってお祭りがあったな。
これでもだいぶ空いた方なんだろうが。
なんとか開いた場所から駅に近づこうとして人混みを斜めに横切りながら進んでいくとベンチと鉄棒、それから街灯だけというシンプルな公園に出た。
「はぁっ・・・窒息するかと思った。酸素濃度薄すぎる。」
息を整えて顔をあげると街灯になにかキラキラしたものがひっかかっているのが見えた。
近づいて見てみるとキラキラしていたのは水が入った袋で。中には赤い金魚が1匹入っていた。リュウキン、だったか。尾鰭がヒラヒラとした、和金とは違う金魚。
「このままじゃ明日には死んじゃうよな・・・明日も暑いと言ってたし、これだけの水じゃ」
持ち帰ってやろうか、金魚ならマンションで飼っても鳴かないし平気だよな。ストレスフルの会社員生活もペットがいれば少し変わるかもしれない、なんていう期待も少しあった。
それよりなにより、この金魚に親近感を抱いた。
あまり揺れないように慎重に持ちながら電車に乗り込み自宅に帰る。
奇跡的に数年前に飼っていた金魚の金魚鉢が残っていたのでその中に入れてやった。
「あ、カルキ抜きしてない・・・ごめんな。大丈夫かな。」
俺の心配をよそに金魚は袋の中より少し広い金魚鉢の中を気持ちよさそうに泳いでいる。その姿を見ながら買ってきたコンビニ弁当を食す。
うん・・・ちょっとだけ寂しさが紛れる。
コツン、と人差し指で金魚鉢を軽く叩く。すると金魚は俺の指を餌とでも勘違いしているのかパクパクと口を動かしている。
「ああー、そうか、餌も買わなきゃな。・・・明日会社休みだから買ってくるよ。ちょっと我慢しててくれ。」
コンビニ弁当を食べ終えて、風呂に入る。なんとなく夜のニュースを観ながらビールを飲む。時折金魚の様子を見ながら。やっぱり今日の祭りの金魚だよな、ところどころ鱗が剥げてたり尾鰭も傷ついている。
眠気がきたので歯を磨いて布団に潜った。眠る直前にもう一度金魚鉢に目をやると月明かりに照らされてキラキラと光っていた。
ゆっくりと瞬きを繰り返しながら段々と眠りに落ちていくのが分かる。
今日もお疲れ俺。
餌を買わなくては、という想いがあったからか休みの日なのに珍しく昼前に起きた。ぼやっとした頭と視界。
視界に・・・・女の子。
ニコニコと柔らかく微笑を浮かべて俺の顔を覗き込んでいる。
「ご主人。お腹、空きました!」
ねぇねぇと俺の身体を揺さぶる女の子の存在に混乱しながら、彼女の奥に見える金魚鉢の中から昨日の金魚がいなくなってるのを漸く認識した。
「ぁあぁああ?!!!君、もしかして金魚食べたのか?!」
お腹空いたとか言ってたけど!
「へ?! 寧ろ私が昨日ご主人に助けられた金魚なんです!」
赤くフワフワしたドレスは、昨日の金魚の尾鰭のよう。いや、そんなバカな。なんてファンタジー、なんてフィクション。いやいや、悪い夢だと言ってくれよ。
「・・・寝る、寝させて。」
「はい、それがご主人の希望であれば」
目を瞑ると再び眠りに落ちた。
それから1.2時間くらいだろうか。再び覚醒するとそこには夢の女の子が
「・・・いる」
拝啓、神宮寺寂雷先生。俺はいよいよ駄目そうです。