毛虫。

それが彼女の第一印象だ。乱数が「僕のポッセには紹介しなくちゃだよね!」と事務所に連れてきた彼女は乱数とはあまり似ていない。双子の妹だという。
重力に逆らっているふわふわとした長い髪、前髪は目を覆い隠している。もしもその前髪の下に乱数と同じ碧い眼があるのだというのなら、多少は信じられるかもしれないが。その色を確認することもできない。

「・・・毛虫か?!」
帝統の言葉に思わず肘鉄を食らわせた。
「いってぇな幻太郎!」
「女性ですよ、口を慎んで」

そして何故小生と完全に同じ感想を抱いたのか。心を読まれでもしたのかと内心焦った。

「ひっどーい!なまえ可愛いのに〜」
「それは、ないよ?乱数は世界一可愛い男の子。私は二卵性だから・・・残念だよ。」
「あはっ!なまえってば最高!」

彼女の手を取りくるくると回り出す乱数はけして彼女を揶揄っている様子はなく本当に可愛いと思っているらしい反応だ。・・・それもそうか、身内であり、半身であるから。

「・・・ねぇ、君。気にしてないから大丈夫だからね。」
「お?おう、でもごめんな!」
「平気。職場だとモップとかコモンドールとか言われるし。」
「コモ・・・?!」
「犬種ですね。ハンガリー原産の大型犬」
「そう、詳しいね。」
「以前作品の資料のために調べましたので。でもどちらかというと貴女の毛質的にはブリアードが近いのでは?」
「そうなの、私もそう言ってるの。けどコモさんって呼びやすいからってコモンドールだって」
「先程から気になっているのですが、どちらで働かれているのですか?」
「ああ、えっとね」

と、彼女が言いかけた時に思わず目が合ってしまった。彼女の髪の中からこちらを伺うそれ。

「・・・あの、なまえさん。そちらの方をご紹介していただいてもよろしいでしょうか?」
「え?あぁ、この子?この子はテグートカゲのエリーさん。」
「あ〜!エリーさんだー!なまえ今日はエリーさんがいたんだねー!」

『今日』、は。

「あのね、私はすぐそこのペットショップの店員してるよ。」
「え?あそこっつーと、かなりでかい大型のペットショップだよな」
「うん。哺乳類から爬虫類両生類猛禽類に奇蟲なんでもござれの総合大型ペットショップ『animaro』です。お見知り置きをー。ん、と、はい、名刺。」

提げていたポシェットからゴソゴソと探し出した名刺ケースから2枚出された名刺をそれぞれ私と帝統に差し出す。・・・さらりと宣伝されたな。
見ると副店長となっている。意外にも役職付きであった。

「ねー!なまえ2人にアレ作ってーマフィン!タネ残ってるからー」
「それなら自分で作れるでしょ。焼くだけ、だよ。」
「なまえがかけるおいしくなーれの魔法が必要なんだよ〜うるうる〜」
「・・・面倒くさいだけ、でしょ」
「まぁ、正解だけど。」
「30分くらい待ってて」
「もー!なまえ、すーきっ!」

ぎゅっと抱き着く乱数、それにぽんぽんと軽く抱き返しそれからそっと離す彼女。
「エリーさん持ってて乱数。あ、それからモトイさんも。」
と、言ってパーカーの少し深めのポケットから取り出したそれは目がクリクリした齧歯類、フクロモモンガ。・・・まだいたのか。歩く動物園かこの子は。

ポシェットから出したジェルタイプのアルコール消毒を少量手に取り出し揉み込み、そのボトルもまた乱数に預けた。
「食べる前に、乱数たちもしといてね。」
「はーい!」
キッチン借りるね、とそのまま奥に消えた。

「幻太郎ー、モトイさん触ってみる?!みちゃう?」
「・・・ええ、少し愛でてみましょうか」

先程、彼女のポケットから出てきたモトイさんは今は専用のポーチに入っており、鼻をひくひくと動かしこちらを見ている。ふむ、赤い目に白い身体。 アルビノだな。
顎下の部分を撫でてやると気持ち良さそうにしている。それにしても、慣れている。・・・アニマルセラピーというものもあるし、動物がいる生活もいいかもしれないな、と少し思った。

「乱数、こう言ってはなんですが。・・・あまり貴方と似ていませんね。」
「うん、そうかもね。どちらかというとなまえは綺麗系だしね!・・・なまえと目が合うと誰も彼も恋に落ちちゃうんだからねー!」
「ふふ、それは大変ですね。気をつけます。」
「気をつけてよ〜?なまえに手を出してたら メッ!だからね??」
「なんの話?」
「なまえがべりきゅーって話だよぉ〜?」
「乱数、兄馬鹿も大概にして?しないと、だよ?」
「えー、やだぁ〜だってなまえが可愛いのは本当なんだもんっ」
「そう言ってくれるのは父母祖父母と乱数だけ、だよ。はい、マフィンできたよ」
「わーい!ありがとうなまえ〜ちゅーしてあげる!」
「ん。」

と、本当に目の前で極々自然な流れで軽く口付けを交わすので私も帝統も固まった。・・・頬とかではなく、唇になのだから。

「え、お前らっていっつもそういう感じなのか?」
「「そうだよ?」」
「綺麗にハモったな おい」
「「僕らは双子のジェミニだからね」」
「・・・急に双子感を出してきましたね」


さて、そんなことがあった3日後でありますが。元々燻っていた猫を飼いたい欲が発火したので彼女のペットショップに訪れた次第です。
と、ドアを開き一歩踏み入れた途端ふわっというか、もふっとしたものにぶつかる。

「おや、これはなまえさん。」
「来ると、思ってた。」
「・・・は?」
「幻太郎が来るのは、なんとなく分かった。」
「それは素晴らしい。小生が貴女に送っていたテレパシーを受信して下さるなんて。」
「違うよ、これは私の野生の勘?」
「・・・テレパシーというのは、勿論嘘ですが。野生の勘・・・?」

調子狂うな、この人。

「んー、なるほど」
「・・・は?」
「お求めはネコでしょう。」

うーん、そうさ御名答・・・・
にゃん、っと指先を丸めてポーズを決めるなまえにほんの一瞬、少しだけ可愛いと思ってしまった。

「こっち」
くいっと袖を引っ張られ、それから手を差し出される。
まるでエスコートされるように。
「まぁ、わっちをえすこおとしてくれるでありんすか?」
「ん、そういうかんじ」

とはいえ、なまえのペースのままでいくのは癪だったので 彼女の手の上に自らの手を重ね、それから指を絡ませてやった。が、動じることもなく先に進まれた。・・・この辺にどこはかとなく乱数との血縁を感じた。・・・握り返されましたしね。

「ほう・・・これは愛らしい」
「気に入った子いれば、出すよ。ちなみにおすすめはこの子、サーバルキャット」
「特定動物では?」
「珍しいんだ、よっ」
「そうでしょうね」
「コモさーん!爬虫類部門救援行ってもらっていいですかー?」
「私今ビッグな商談中、だよ?」
「本当にコモさんって呼ばれてるんですね。行ってきていいですよ。じっくり見てます。」
「ん〜・・・分かったよ。すぐに戻るね、」

そう言うとすぐ横の階段を登り彼女は去っていった。
・・・さて、どうしたものか。いざ選ぶとなると迷うものだな。十余年は一緒に暮らすのだから、慎重になる。ふむ、十年後かその頃には俺も結婚しているかもしれない、ネコが大丈夫な妻を娶らなければいけないな。など、色々と考えを巡らせていたところ先程なまえを呼んだ男性店員がじいっと此方を見ていることに気がついた。
「小生になにか御用ですか?」
「・・・あんたポッセで作家の夢野先生だろ。」
「えぇ、まぁ。」
「コモさんとどういう関係なの」
「・・・私のことを知っているのなら乱数のこともご存知でしょう」
「知ってるさ、コモさんが飴村乱数の双子の妹だってことは。そうじゃなくてさ、コモさんと・・・なまえさんと付き合ってんの?」

おや・・・成る程、成る程。そういうことですか。
明らかに俺に向けているのは敵意ですからね。

「好きなのですか?」
「むっ・・・そりゃ、アンゴラみたいなあのふわふわした感じとかウェルシュコーギーみたいなとてとてした歩き方とか見たら可愛いって思えちゃうじゃん」
「動物で例えたり名付けたりするのお好きですね貴方。」
「なんで俺がコモさんって名付けたのわかるんだよ!?」
「・・・・・なんとなく感じてはいましたがそうなのですね。」
「で、どうなんだよ・・・」
「えぇ、小生たちは・・・」
「あれ?どうかしたの?」

今考えても何故あんなことを言ってしまったのかと不思議で仕方がない。妙なタイミングで現れたなまえに驚いたのだろうか。いつもの様な感覚で嘘を吐いた訳ではなく、小生は、本当に、口を滑らせたのだ。

「お付き合いしているのです。」