私が綺麗だったら良かったのに
「・・・・・・なぁ。いくらなんでも長くね?」
「なまえちゃんの長期任務が?」
「そう。」
机に顎を乗せて、ぶすくれた顔の薫。
それに応じた紫穂の眉もひそめられた。
葵は宿題をしていた手を止めた。
「せやかて、皆本はんが「とっても大事な任務だから、いつ帰ってくるかもわからない」って言うてたで?」
「・・・・皆本さんのこと、透視てみたんだけど・・・・・本当に、何も知らないみたいだったわ。」
「・・・・・皆本も知らないってことは、もしかして、ばーちゃんなら・・・・。」
「有り得るわね。」
「・・・・・早く、帰ってこないかな。」
薫の呟きに、紫穂と葵は目を静かに閉じた。
リビングに訪れる静寂。
「・・・・・あー!やっぱ我慢なんてできるかよっ!!」
静寂を打ち破るように薫は立ち上がる。
それに吊られるように、葵と紫穂も静かに椅子を離れた。
「・・・せやな。」
「蕾見管理官の所に行きましょう。」
「そーとなりゃー頼むぜ!葵!」
「任せときっ!」
葵は瞬間移動をした。
リビングには誰も居なくなった。
おかしい、と皆本は首を傾げた。
スーパーでカゴを片手にトマトを手に取っているが、彼の頭を悩ませているのはトマトのことではない。
「(確かになまえは幾つかの貴重な能力を持つ超能力者だ。でも、一つのチームに所属している超能力者をいつ終わるかもわからない長期任務に着かせるか?)」
手に取っていたトマトをカゴへ三つ入れると、皆本は思考に浸ったまま歩きだした。
「(管理官は何も教えてくれなかった。ただの長期任務だの一点張りだ。だいたい、主任の僕に少しも話を通さずにくる任務ってどんな任務だよ!)」
イライラと、牛肉を手に取りカゴに入れた。
突然、その皆本の動きが止まる。
「・・・なまえ、?」
呆然とした皆本の口から零れたのは、たった今頭を悩ませていた超能力者の名前だった。
目線の先にいるのはたまたま買い物に来ていたなまえである。
勿論、皆本はその事実を知らない。
無意識に動く、皆本の足。
「・・・・っ、!」
少し手を伸ばせば届く距離。
ぱちり、と皆本の目線となまえの目線が重なった。
徐々に見開かれる目。
「、あ・・・・・・」
「・・・君、は・・・・・・」
「なまえ?」
「「!」」
何かを言いかけた口を塞ぐようになまえの後ろから声が被さった。
「兵部・・・京介!?」
「・・・・・なんでこんな所に君が居るんだ。」
「それはこっちの台詞だっ!!」
なまえの背後から現れた兵部は、皆本を視界に入れるといかにも嫌な物を見たという表情になった。
むっとした皆本は声を荒げる。
それに驚いたのか、兵部が現れてから顔を俯かせていたなまえは肩をびくつかせた。
「・・・そう声を荒げるなよ。僕はただ普通に買い物しに来ただけだぜ?」
「犯罪者が普通に買い物とか言うなっ!!」
「っ、」
「・・・話の通じない奴だなぁ。」
兵部は睨みつけている皆本から隠すように、なまえを背中にまわした。
「今日は君に用はないからね、・・・・帰るとするよ。」
「まっ、兵部!その子はなまえだろ!?なんで・・・・・!!」
皆本に背を向けて、歩きだそうとする兵部。
皆本はすかさず呼び止めた。
「・・・・・・さぁね、もし・・なまえだとしても、この子は君達の元へ戻ることを望んではいない。」
「なっ、!!」
「・・・・・、」
皆本は兵部の隙間から見えるなまえが泣いているのに気がついた。
兵部はなまえを連れて立ち去った。
皆本はただ呆然と立っていた。
「京介、」
「・・・・・・、なまえだってわかるだろ?今バベルに戻ればどうなるか。」
「っ、それは・・・・。」
鋭い目で兵部に見られ、なまえは兵部に伸ばしていた手を引き戻した。
「超能力、つかえないんだろ?」
「つ、使えるもん!」
眉を吊り上げて反論するなまえ。
「意地なんて張るなよ。・・・・使えたって暴走するのが目に見えてるぜ?」
「う、」
言葉を詰まらせたなまえに兵部はため息を吐いた。
「不二子さんや桐壷くんはともかく、政府が黙っていると思うかい?」
「!!」
「僕が知らないとでも思っていたのかい?」
眉を少し下げ、怒っているとも、悲しんでいるとも、憤っているとも、なんとも言えない表情で兵部は言う。
「きょうすけぇ」
「ほんと君は泣き虫だな・・・・・、」
顔から力を抜いて、目からボロボロと涙を流すなまえに兵部はため息をついた。
「・・・・ぼ、僕、・・・っ、」
「・・・うん、」
「・・・・もう、政府の、言いなりなんて嫌だよ・・・・・、」
「・・・・・ずっと、ここに居ればいいさ。」
「っ、・・・・・・・・・うん、」
そっとなまえを引き寄せ、強く抱きしめてしまえば壊れしまうと感じたのか、優しく抱える兵部。
なまえは、兵部の鼓動を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。
「・・・・・そんなことって、」
「・・・・・・有り得るのよ、政府では。」
雑誌ほどの厚さのファイル。
買い物から戻った足で不二子を訪ねた皆本は、ファイルを呆然と眺めた。
「ですが、これじゃ、まるで・・・・!」
「・・・政府にとって、彼女は 犬 よ。何でも言うことを聞く、従順な。」
壁に寄り掛かる不二子の表情は堅い。
カタリ、とドアが鳴った。
不二子は音の鳴った方を暫く見ていたが、ゆっくりと目を皆本へ戻し口を開いた。
「・・・・私や、兵部という壁を失った彼女は、政府にとって、とても使い勝手の良い道具にしか写らなかった。」
「だからって、こんなことをしてっ・・・・・・」
皆本はファイルを机に叩きつけた。
開いたページには「伊−00、極秘任務実績」とある。
目に入るのは未来予知や世界状況の予知、果てには襲撃や暗殺と言ったどれも気分の悪くなるような出来事ばかりだった。
「・・・・未だ、なまえは政府に捕われたままよ。戦時の罪を、理由として。」
「罪、って、なんです?」
「・・・・・それは、また別の話よ。」
皆本から顔を反らした不二子は、皆本の手からファイルを抜き取った。
パラパラと意味もなくファイルをめくり、不二子は小さくため息をついた。
「それで、あいつらには・・・・・・・」
「・・・・・・・・・この件に関しては伝える理由がないわね、」
「どういうことだよ、ばーちゃんっ!!」
不二子が小さく呟くと同時に、ドアを念動力で吹っ飛ばし薫、葵、紫穂が部屋の中へと入って来た。
「お、お前ら!」
「・・・・・やっぱり聞いてたのね。」
驚く皆本と呆れる不二子。
そんな二人の様子を気にする訳もない薫は、怒りが頭に上っているのか、顔を真っ赤にしながら怒鳴る。
「なまえが、犬ってどーゆーことだよっ!?」
「それは、」
「このことは、極秘事項なの。だから、いくら貴女たちでも教えてあげられない。」
きっぱりと言い放つ不二子に紫穂が口を開いた。
「なまえちゃん、出会った頃から心の奥底に真っ暗な透視できない部分があったわ。なのに、いつも一人だったのよ!」
「せや、うちらと一緒に過ごしても暫くはぜんっぜん笑うてくれんへんし、」
「よく笑うようになってたのに、最近また笑わなくなったんだ。心配なんだよっ!なまえのことがさ!教えてよ!本当はなまえは長期任務なんかじゃないんだろ!?」
紫穂に続いて口々に叫ぶ葵と薫に、皆本は唇を噛み締めた。
「・・・・・なまえは、兵部の元に居るんだ。」