それは儚く尊い夢でしょうか

『君は、?』




『っ!』




『・・・・・泣いて、いるの?』




『・・・・・・泣いてなんか、いません、』




『・・・泣いてじゃないか。』




『放っておいてください、私みたいな、ばけもの、なんか。』




『そんなこと、だれが・・・・・』




『・・・・おとうさま、も、おかあさま、も、みんな、です。』




『・・・・・・』




『私に、こんな、変な力があるから・・・・・・っ』




『・・・・ねぇ、その変な力って物を動かしたりとか、そういうこと?』




『・・・・いえ、怪我を、治したり、・・・・触れると、人の心が読めたり、』




『!一緒だ!君、僕と一緒だよ!』




『、え?』




『僕と同じ、超能力者だよ!』




『えす、ぱー?』




『僕らは仲間だよ!』




『なか、ま。』




『君、名前は!?』




『なまえ、みょうじなまえ、』




『なまえちゃんか!僕は兵部京介!』




『兵部、さん?』




『京介でいいよ!これからは、一人で泣かないで。僕が側にいるから!』
















「京介、くん・・・・・・・・」

「呼んだかい?」



無意識に呟いた言葉に返事が来たのを驚き、倒れていた身体を起こすなまえ。



「な、いっ・・・・・」



身体に走った衝撃に、力が抜けてなまえは再びベッドへと倒れた。

首だけを動かすと、視界には困ったように笑う兵部が居た。



「無理はしないほうがいい。」

「兵部、京介!」

「さっきまでは昔みたいに呼んでくれたのに、フルネームはやめてくれよ。」



ゆっくりとなまえのいるベッドへ近づく兵部。

なまえは念動力でベッドに膝を立て、兵部に向かって手の平を翳した。



「なんで貴方がここに居るんだ!」

「覚えてないのかい?「あそこ」で倒れた君を僕が助けたんだよ。」

「・・・・・?」

「というか、自分の姿どうなってるかわかっているのかい?」

「どうって・・・・、?髪の毛、長い、かも、」



さらりと肩から滑り落ちた髪を一房手にとるなまえ。

見なよ、と洗面所(らしき場所)を指さされなまえは促されるままに瞬間移動した。



「えっ!?なっ、なな」



信じられないとばかりに鏡に手をついて、なまえは驚愕に目を見開いた。



「な、んで、わ、私になってるの!?」



鏡に映っているのは、「10歳」のなまえでなく、「胸に傷を負った頃」のなまえだった。

手足はすらりと伸び、腰に届くほどに長い黒髪は光を浴びて煌めく。

整った顔だちはそのままに、けれど成長し、あどけなさを残したままのなまえ。


呆然とするなまえの背後から兵部はひょっこりと顔を出した。



「まぁあの時の君じゃないかな?ちょうど16ぐらいだったけ?」

「・・・・なんで、僕はあの時・・・・・・」



確かめるように自分の顔や身体を触るなまえ。

余程混乱しているのか、顔は青白く、瞳からは涙がこぼれ落ちそうだ。



「・・・・僕が思うに、「あそこ」で君は明らかに意識がなかった。」

「どういう、こと?」



顎に手をおき、思考する様子を見せる兵部の顔をなまえは正面からみた。



「洗脳されかけていたんだよ、要するに。」

「!」

「心当たりはあるみたいだね。」

「・・・・よくは、覚えてないけど。」



洗面台に寄り掛かり、兵部から目を逸らすなまえ。



「で、必死に抵抗した君は普段使わないような力を使って、暴走した力は君の身体を元に戻した、ってところかな。」

「暫く戻らないのかな・・・・・・というか、急激に成長したせいか、あちこちが痛いし。」



静かにため息をつくなまえに兵部は洗面所の鏡に手をついて、耳元で囁く。



「ここに、居ればいいじゃないか。」

「っ!・・・・わかっているの?僕と君は敵同士でっ!!」



唇を噛み締め、きつく言うなまえ。

兵部は少し傷ついたように笑う。



「それぐらい、知ってるさ。」

「なら!」

「好きだから、愛してるから、」

「!」

「少しでも一緒に居たいっていうのは・・・・いけないことなのかい?」



そっと静かになまえを抱き寄せ、切なげに囁く兵部。

その声に、ふるりとなまえが震えた。



「、本当に、・・・京介は狡いよ、・・・・・僕だって・・・・・私だって、好きだよ、京介のこと。」

「なまえ、」

「思い出してからは、ずっとそう。いつも、いつも、心の底で思っているの・・・・あの頃に戻りたいって、」

「なら、」



何か言いかけた兵部の口を、なまえは振り返って指でそっと塞いだ。

瞳は涙に濡れ、キラキラと輝いている。



「どうして・・・・僕ら、こうなっちゃったんだろうね、」



悲しげに、伏せられる瞳。

二人は見つめ合うと、どちらとも言えずに、唇を重ねた。

2018.01.22

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