こんな事は知らない
“
僕は、
「なまえ!!」
「― ―、」
「何故だ、何故なんだなまえっ!!」
「ありがとう…― ―、愛してる。」
「っ!知ってるさ!!僕だって愛してる!!」
「うん、知ってたよ…。」
「っなら…!?」
「でも駄目なの、それが────運命だから。」
「認めない───!僕はそんな運命っ、認めないっ!!!」
「……ありがとう、― ―、僕も……一緒に居たかった!!」
「なまえ!」
「未来は変えられない…、君にもすぐ分かるよ、」
「…!?」
「────さようなら、ありがとう。」
「!行くな、なまえ!なまえ!!!」
君と別れるのは、とても辛かった
でも“
胸の奥を張り裂けるほど、"痛み"がはしって────
だけど、全てを棄てて僕は──
"ここ"から消えた
プロローグ
逃げたい逃げたい逃げられない
<「 化け物、 」
どこにいっても
いつになっても
言われるのはいつだって
その一言だった
目が醒めてまず初めに感じたのは、体を覆うけだるさと―――――彼を失った悲しみだった。
大きく空いた何かが埋まらない。
「― ―、」
埋まらない何かを埋めようとする衝動に動かされて口にだした彼の名前は、僕の胸に更に虚しさを与えるだけだった。
もう二度と会うことは叶わないのだから。
いくら強力な”能力者”だって、何度も”超えたり”できない。
「……何度も、予知をしていた筈じゃないか────。」
地面に手足を投げ出したまま、僕はきつく目を閉じる。
理解はしているけれど、納得はしていない。
ほんの数秒だけ、目を開いた。
目の前に広がったのは、憎らしいほどの青い空────
「……じゃなくて、何この生物。」
そこにいたのは、僕をのぞきこむ無機質な瞳。
その生物はシルクハットを被り、兎のように長い耳を持ち、無駄に歯が白かった。
謎の生物は僕と目が合うと、口を大きく空けてにっこりと笑う。
「初めましテ、」
「喋った………じゃなくてコンニチワ。」
謎の生物に驚きながらも返事を返す。
謎の生物は何が嬉しかったのか、口角をさらに上げて笑みを深めた。
とても現実とは思えないその姿に、無意識に恐怖を煽られる。
「我輩は千年公でス❤︎」
「………僕はなまえです。」
僕が名乗ると、謎の生物────千年公はさらに顔を近づける。
「なまえさんというですカ。………ところで、可哀想に貴女、大切な人を亡くしましたネ?死とはなんと悲しいものでショウ!!」
千年公は芝居かかった仕草で大きな瞳から涙を流し、僕の肩を抱いた。
「………無くした、けど別に死んだ訳じゃない。」
「死んでなイ?」
僕から顔を離し、首を傾げる千年公。
やっと顔がどいたので、とりあえず地面に倒していた体を起こす。
千年公と出会った衝撃で一瞬だけ忘れていた虚しさが、また僕を襲う。
「だって、初めから、彼は、"
「……"ここ"、ですカ?」
「そうだよ。」
ゆっくりと目を閉じる。
素性もわからない、謎の生物に自らの気持ちを吐露してしまうほど疲れていた。
今は何も考えずに眠ってしまいたかった。
だが、目の前にいるこいつは危険だ、と僕の勘が告げていた。
「なまえ、「別に、僕は彼を恋しいとは思ってないよ。」
「?我輩の考えてることが分かるんですカ?」
「…、(話しすぎた…!)」
僕はあえて無言を貫いた。
早くここから立ち去りたくて、うっかり千年公の話を遮ってしまった。
しかもうっかり"
千年公は僕を不思議げに暫く見たかと思うと、表情を一変させた。
「…興味深いですネ、」
「……用がないなら僕は君と、さよならしたいんだけど?」
急に怪しく笑いだした千年公に、僕は嫌な予感がして素早く立ち上がった。
「そうですカ?何かありましたカ?」
「……いえ、急用を思い出したので。」
「…そうですカ。でも、」
「逃がしませんヨ」
いつの間にか暗くなっていた辺りの中で、千年公の笑いだけがやけにはっきりと見えた。
大きな大きな口元とどこを見ているかわからない瞳だけが、大きく歪んでいた。 2018.03.18