Hello,world



なんでこんな所に自分は居るのだろう。

今、私が立っているのは人通りの多い街みたいで。

レンガで組み上がった見渡す限りいっぱいの煤けた茶色。

見たことない場所だ。だって私は──




「どこ、から来たっけ・・・・?」




何も思い出せない。

足がよろけて、自分の足元に置いてあったトランクにぶつかる。
結構痛い。




「・・・・・・私、は、」




よろけた勢いのまま地面に座り込んだ私の目に、トランクに書いてある名前が飛び越んできた。




「・・・『ナマエ』?」




『ナマエ』
そういえば、自分の名前はそんな感じだったかもしれない。


ガンッと背中に衝撃がはしり、慌てて振り向いた先にはなんとも不機嫌そうな男性が居た。どうやら物凄く通行の邪魔になっているみたいだ。
人通りも多いし、当然かもしれない。

慌てて立ち上がり、男性に頭を下げた。




「チッ!」




頭上から聞こえた舌打ち。

思わず反射で身を縮こませた。ぐるぐると暗い色が胸の中で渦巻く。

意味がわからないことだらけで、男の人に怖い顔で舌打ちされて、散々だ。

だけど、普通に考えて道のど真ん中に居座る私が悪い。
とりあえず目立たない路地裏にでも移動しなきゃ。

もう一度、舌打ちされたら、今度こそ泣いてしまいそう。

多分自分のものだろう、傍にあったトランクと一緒に先の見えない路地裏へと足を進めた。



















失敗したと、じりじり距離を詰めてくる男を見て思う。

目立ちたくないからだなんて、くだらない理由で路地裏に入ることが間違いだった。


男はハァハァと息遣いが荒く(決して走ったからとかそう言う訳でなく)、いやらしく笑いながら私に向けられるねっとりとした視線。




「君、困っているんだろう!私と一緒においで!ちょうど空いている部屋があるからさ──!」

「へ、あ、あいえ、あ?」



目の前の男に意識を集中しすぎて、息を吸って吐くのが精一杯だ。

口がうまく動いてはくれないし、何を言ったらいいのかもわからなくなってしまった。

男、改め変態は興奮しきった様子で続ける。





「君みたいな子がこんなところに居てはいけないよ!さあ、私のお家で暖まろう!!」

「あ、ぁ、や、ぁ、」




男がどんどんと私へ迫ってくる。

男の口元だけが、奇妙に歪んで見える。




「さあ、早く、さあ!」

「や、ああ、や、!!」




背中が冷たい壁にぶつかる。

男の手がもう届く距離に来る。

呼吸の感覚が短くなる。

いや、いや、嫌っていやって、




「ぃ、いゃあああ!!!」

「!?ッ!!」



何とか出てくれた声。

声が出たおかげか、強張って動いてくれなかった体が動く。

渾身の力で利き手の右手が、男の顔を叩く。

わずかでも距離が離れた隙に、一目散にその場から走り去る。




「―――――――!!」




後ろから怒り狂った声がする。

両手で何とか抱えたトランクを落とさないように、腕に力を込めて、必死に両足を前に出す。

とりあえず、人が、人がたくさん居るところに逃げなきゃ────!

はやく、はやく────!!

























今の時代、孤児なんていうのは珍しくも何ともない。
なんせマグルの連中は戦争の真っ只中だ。

だが、僕はマグルじゃない。

自分が、下等なマグルの孤児と一緒にされるなんて我慢ならない。


僕はそいつらとは違う。

僕は魔法族で、あいつらとは流れている血の高潔さが違う。
そして、僕はその魔法族のなかでも、僕は、偉大な魔法使いなんだ・・・!!















「・・・・・ねぇ、」

「・・・・・・・・・・」

「・・・死んでる?」

「・・・・・・・・・・」




嘆息を一つ。

反応がないなんて面倒臭い。

背丈から見るに、おそらく僕と同じ年くらいのようだ。
肩口までの柔らかそうな髪が、うつ伏せに倒れているこの少女の顔を覆い隠している。

うつ伏せのその姿からわかるのは、少女の手足の細さが目につくということくらいか。

どうせまたマグルの戦争で生まれた孤児だろう。

僕には関係ない。そこまで薄汚れていないし、何より女だから、運が良くても悪くても誰かには拾ってもらえるだろう。



ま、待って・・・・、

「・・・・は?」




今なんて言ったのだろう。

掠れていた上に、よく注意して耳を傾けていなければ聞こえないほどの声量だ。

発された言葉は聞き取れなかったが、それこそまるでなにかの呪文をかけられたかのようにその場から離れられない。



「た・・すけ・・・て・・・、」

「!!」




自分でも目が開いているのがわかる。

酷く、整った顔立ち。

さらさらと流れる細く黒い髪。

黒い吸い込まれるような瞳。

白くきめ細かな肌。

ぷっくらと可愛いらしい唇。



彼女が顔を上げた瞬間、彼女と目が合った瞬間、彼女という存在を認識した瞬間――――僕は甘く、痺れるような・・・・不思議な感覚を味わった。




「き、みは・・・・?」

「おね・・が・・・い、」




それだけ残して、再び伏せられる黒。足首を押さえていた力も消える。

惜しい折角綺麗な闇が僕を見つめていたのに。







――ズッ・・・・ズズッ







突如、何処からか聞こえてくる何かを引きずる音。




「・・・・・なん―――――――――――は?」




音のする方を目を懲らして見ると・・・トランク、だろうか。見たところ誰もトランクを押している様子はない。




「・・・・・・勝手に動いている?」




まさか、いやだけど・・・・・・ゆっくり近づいてくるトランクは此処に倒れている彼女のものか。
だとしたら・・・・彼女も僕と同じ・・・・魔法族。

ぴったりと、彼女の横に止まったトランクを見てため息をついた。




「・・・・・とりあえず、誰か呼んでこよう。」





















―――――――

変態と出会いました。


title:貴方は私を覚えていますか?
2018.04.10

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