jealousy
2015年サンデー表紙のアレ「…………。」
「……あの、えっと………。名前さん?」
「…………。」
京介が、顔を青白くして私の後ろに立っている。
けど、京介に応える気持ちは少しも湧いてこない。
あのシーン────薫と京介が、手を繋いで撮影している姿を見てから、ずっと、苦しくて、悲しくて。
何をしても集中できなくて、ぐるぐると思考だけが、あのシーンを何度もなぞって止まない。
「あ、あたしにも怒ってるかなあれ。名前怒ってるかな…!」
「うーん、でもショックですよねぇ。」
「ノリとはいえ、彼氏が友達とあんなに固く手を握ってれば……ねぇ?」
「ていうか、明石と手を繋ぐなんて羨ま……けしからん!」
「松風くん本音出とるで。」
薫たちの話し声が聞こえてきて、また一層体が重くなる。
紫穂が手に持った、黄色い背景のキレイなポスターが視界の端に写って、胸の中心を誰かに握りつぶされたように息苦しくなった。
…薫のことは大好きだし、勿論京介のことも────大好きだし、愛してる。
随分長い付き合いだけど、京介に対するこの気持ちを自覚したのはここ数年のことで、京介に気持ちを伝えたのも、京介も同じ気持ちだったと知ったのもここ数年のことで。
そういう関係になったのは、最近だけど、もう高校生だし、実際もっと長い年月を生きたのに…。
こんな子供の癇癪みたいなことで、大切な人たちを困らせたくないのに。
「さ、撮影のためだったから…、深い意味はないっていうか…。」
「…京介が、薫のこと、1番大切にしてるの、わかってるから、っ」
「!!」
「「「「「(あー、泣かせた)」」」」」
ああ、喉が震えて、まともな声が出せない。
視界も、滲んでしまう。
こんなことで泣くなんてみっともないし、薫たちも見てるのに。
一度溢れ出た気持ちを抑えることができなくて。
ずっと溜まっていた思いが、口からこぼれ出る。
「い、1番が僕じゃなくても…。きょ、京介の心に…僕も入れてもらえてるか、ふ、不安で…!」
「っそんなこと!!」
隊長に裏切られ、絶望した京介を、ここまで生かしてきたのは、薫───女王の存在だ。
僕は、京介を生かす理由にも、希望にもなれなかった。
京介は、僕のことも大切に思っていると言ってくれたけれど、いつも、不安になってしまう。
僕はいつももらってばかりで、京介にしてあげられたことなんて、ほとんど無い。
いや、でも本当は、本当はもっともっと、くだらない理由が原因だ。
だって──!
「だ、だって…京介、僕にはキスはおろか、て、手だって!繋いでくれたこと、な、なかったのに…!!」
「「「「…少佐……。」」」」「…京介……。」
言ってしまった。
こんな、こんな思い、子供のように幼い独占欲と一緒だ。
涙を止めることはもうできなくて、もう何もかもから逃げたくなって手で視界を閉じた。
「…名前。」
不意に、視界が明るくなる。
瞬間移動で、京介の目の前まで移動させられたようだ。
京介は僕の両手首をつかみ、ゆっくりと顔から腕をどかすと、そのまま僕の両ほほに京介の両手を添えた。
ちょっとだけ体温の低い京介の手に、僕のほほの熱が流れていく。
京介の親指が、僕の目元をなぞる。
少しはっきりした視界の中央で、京介は苦しそうな表情をしていた。
「…僕は、亡霊だ。未来を生きることは…できない。だから、今ならまだ「京介が!京介がいいの!!」
京介だって、生きているんだ。
未来があるのは、僕だけじゃ無いのに。
そんな、他の男と生きていくなんて考えられない。
「名前…、」
「京介…。」
京介が、かすかに目を開いた。
その中に、いままでになかったような、光を見た気がした。
京介の顔が、僕の視界を占領する。
京介の瞳の中に、僕が居て──。
「二人とも、私たちのこと忘れてない?」
紫穂の声に、京介も僕も、体を硬直させる。
横に向けた視線の先に、鼻息荒くこちらを見守る薫、手で目を覆いながら指の隙間よりこちらを伺う葵、顔を真っ赤にさせながらこちらを凝視する悠理ちゃん、同じく顔を真っ赤にして震える松風くん、そして呆れた表情の紫穂が居た。
みんなの顔を見て、いま京介ととんでもなく距離が近いことに気づいた。
「あああああああああ、こここここれは!!」
「…すまないね、女帝…いや紫穂ちゃん。」
京介が苦笑いで、紫穂に返答しているけど。
さっきもしかして京介、僕にキスしようとしてた!?!?
て、手もまだ繋いだことないのに、キスって!!!
もう本当に何も考えたくなくて、目の前にあった京介の胸に埋まる。
「…とりあえず、機嫌は直してくれたのかい?名前。」
今度は、キスされそうになった事実に、気をとられていると京介が僕に小さく囁いた。
戸惑いを押し出すように、小さく息を吐いて、京介の服を握りしめたまま、声を出す。
「…手、繋いでくれたら、許してあげる。」
「「「「「「(上目遣いで恥じらう名前可愛いすぎ!!!)」」」」」」
「…なんだって、してあげるよ。君のためなら。」
そう言って、京介は困ったように片目をつぶった。
「(うそつき。でも、そんなみんなのために生きる京介が好きだから…。)」
京介は、みんなのために、超能力者のために生きると決めたから。
そして、僕は、そうやってみんなのために生きる人たちのために、生きようと決めたから。
隣に大好きな存在がいるだけで、幸せなんだろう。
2018.05.13